麻痺側の痛み(CRPSなど)のリハビリと治療
麻痺側の痛み、特に複合性局所疼痛症候群(CRPS:Complex Regional Pain Syndrome)などに代表される病態は、患者さんの生活の質を著しく低下させる深刻な問題です。この痛みは、単なる感覚異常にとどまらず、運動機能の障害、自律神経症状、さらには精神的な苦痛を伴うことが多く、多角的なアプローチが不可欠となります。
CRPSの病態と特徴
CRPSは、怪我や手術など、何らかの誘因の後に発症し、患部の強い痛み、腫れ、皮膚の温度・色の変化、発汗異常、関節のこわばり、運動制限などを引き起こします。痛みの性質は、灼熱痛、電撃痛、ズキズキする痛みなど多様であり、触れるだけでも激しい痛みを感じる(アロディニア)、通常では痛みを伴わない刺激で痛みを感じる(機械的刺激に対する過敏性亢進)といった特徴が見られます。
CRPSは、その原因や病態生理が完全に解明されているわけではありませんが、神経系の過敏性亢進、炎症反応、自律神経系の異常などが複雑に絡み合っていると考えられています。初期段階では交感神経系の活動亢進が関与しているとされ、進行すると中枢神経系での痛みの情報処理の変化も関与してくると言われています。
麻痺側の痛みという点では、脳卒中後遺症などによる中枢性の麻痺に伴って発症することも少なくありません。この場合、麻痺による運動機能低下に加えて、痛みが生じることで、さらなる機能回復を妨げる要因となります。
リハビリテーションの目的とアプローチ
CRPSを含む麻痺側の痛みのリハビリテーションは、痛みの軽減、運動機能の改善、日常生活動作(ADL)の向上、そして心理的なサポートを総合的に行うことを目的とします。
運動療法
運動療法は、CRPSのリハビリテーションにおいて最も重要な柱の一つです。痛みを悪化させないように注意しながら、段階的に負荷を上げていくことが重要です。
- 段階的負荷運動: 痛みの程度に応じて、軽いストレッチや関節可動域訓練から開始し、徐々に筋力トレーニングや協調運動へと進めます。
- 感覚入力の再教育: 痛みの感覚が過敏になっている場合、様々な質感のものに触れたり、温冷刺激を与えたりすることで、正常な感覚入力を促します。
- 鏡療法(Mirror Therapy): 鏡を用いて健常な側の手足を動かすことで、患側の脳での運動イメージを活性化させ、痛みの軽減や運動機能の改善を目指します。
- 作業療法(Occupational Therapy): 日常生活動作(食事、着替え、入浴など)に必要な動作を、痛みを最小限に抑えながら行うための練習を行います。装具の利用や自助具の活用も検討されます。
物理療法
物理療法は、痛みの軽減や組織の治癒促進を目的として用いられます。
- 温熱療法・寒冷療法: 患部の血行を促進したり、炎症を抑えたりするために、温浴や温湿布、冷却パックなどを症状に合わせて使用します。
- 神経筋電気刺激療法(NMES): 筋収縮を促し、筋力低下の予防や改善を目指します。
- 経皮的電気神経刺激療法(TENS): 痛みの伝達を抑制する効果が期待されます。
- 超音波療法: 組織の治癒促進や痛みの軽減に用いられることがあります。
精神的サポートと心理療法
CRPSは、長期にわたる激しい痛みから、うつ病や不安障害などの精神的な問題を併発することが少なくありません。そのため、心理的なケアも非常に重要です。
- 認知行動療法(CBT): 痛みに対する考え方や対処法を変えることで、痛みのコントロールを支援します。
- リラクゼーション法: 腹式呼吸、漸進的筋弛緩法、瞑想などを通じて、心身の緊張を和らげます。
- マインドフルネス: 現在の瞬間に意識を集中することで、痛みへの過剰な囚われを軽減します。
- 集団療法: 同じような悩みを抱える患者さん同士で経験を共有し、支え合うことで、孤立感を軽減し、前向きな気持ちを育みます。
薬物療法
薬物療法は、痛みのコントロールと炎症の軽減を目的として、医師の処方のもとで行われます。
- 鎮痛薬: 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンなどの一般的な鎮痛薬に加え、神経障害性疼痛に効果のある薬剤(プレガバリン、ガバペンチン、三環系抗うつ薬、SNRIなど)が使用されることがあります。
- 抗うつ薬: 痛みの軽減効果に加えて、併存するうつ症状の改善にも用いられます。
- 抗不安薬: 不安症状が強い場合に一時的に使用されることがあります。
- ステロイド: 炎症が強い場合に、短期間使用されることがあります。
- アルファ・ブロッカー: 交感神経の活動を抑制するために使用されることがあります。
- ビスホスホネート: CRPSの病態によっては、骨代謝の異常が関与している場合があり、その治療に用いられることがあります。
その他の治療法
上記以外にも、様々な治療法が検討されます。
- 神経ブロック療法: 交感神経ブロックや局所麻酔薬によるブロック療法は、痛みの伝達経路を遮断し、痛みを軽減する効果が期待できます。
- 理学療法(Physical Therapy): 運動療法や物理療法と連携し、専門的な評価に基づいた治療計画を立て、実施します。
- 作業療法(Occupational Therapy): 日常生活動作の獲得や、社会復帰に向けた支援を行います。
- 心理カウンセリング: 精神的な苦痛に対する専門的なサポートを提供します。
- 代替医療: 鍼灸治療やマッサージなどが、補助的に効果を示す場合もありますが、科学的根拠が確立されていないものもあるため、医師と相談の上、慎重に検討する必要があります。
治療における多職種連携の重要性
CRPSを含む麻痺側の痛みの治療は、医師(整形外科医、麻酔科医、神経内科医、精神科医など)、理学療法士、作業療法士、看護師、心理士、ソーシャルワーカーなど、多職種が連携して行うことが極めて重要です。患者さんの状態を多角的に評価し、それぞれの専門性を活かした治療計画を共有することで、より効果的な治療が可能となります。
患者さん自身ができること
患者さん自身も、治療に積極的に参加することが大切です。
- 自己管理: 医師やセラピストの指示に従い、自宅でも積極的にリハビリテーションを継続すること。
- 生活習慣の改善: 十分な睡眠、バランスの取れた食事、禁煙などを心がけること。
- ストレス管理: リラクゼーション法などを活用し、ストレスを溜め込まないようにすること。
- 情報収集: 病気や治療法について理解を深めること。
- 諦めない心: 治療には時間がかかることもありますが、焦らず、一歩ずつ前進していくことが大切です。
まとめ
麻痺側の痛み、特にCRPSは、その複雑な病態ゆえに、画一的な治療法はありません。個々の患者さんの状態、痛みの性質、機能障害の程度、精神状態などを総合的に評価し、運動療法、物理療法、薬物療法、心理療法などを組み合わせたオーダーメイドの治療計画が不可欠です。多職種連携のもと、患者さん自身も積極的に治療に参加し、根気強く取り組むことで、痛みの軽減、機能回復、そしてより良いQOLの獲得を目指していくことが重要です。
