リハビリ中の合併症予防(褥瘡、肺炎など)

ピラティス・リハビリ情報

リハビリテーションにおける合併症予防:褥瘡と肺炎を中心に

リハビリテーションは、病気や怪我からの回復を促進し、機能低下を最小限に抑えるために不可欠なプロセスです。しかし、リハビリテーション期間中であっても、患者さんは特有の合併症のリスクに晒されます。特に、褥瘡(じょくそう)と肺炎は、患者さんの回復を遅延させ、生活の質を著しく低下させる可能性のある主要な合併症です。これらの合併症を効果的に予防するためには、多角的なアプローチと、医療従事者、患者さん、そしてご家族との密接な連携が求められます。

褥瘡(床ずれ)の予防

褥瘡は、長時間同じ体勢でいることによって、皮膚と骨の間に圧力がかかり続けることで生じる組織の損傷です。リハビリテーション中の患者さんは、移動能力の低下や感覚の鈍麻などにより、褥瘡のリスクが高まります。予防策は、以下の点に集約されます。

1. 体圧分散

  • 体位変換: 2時間おきに体位を変換することが基本です。寝返りが困難な患者さんには、介助による体位変換が重要です。クッションや体位変換クッションなどを活用し、体の特定の部分に圧力が集中しないように配慮します。
  • マットレスの選択: 体圧分散マットレスは、体重を均等に分散させる効果があり、褥瘡予防に有効です。エアマットレスや低反発ウレタンマットレスなど、患者さんの状態や体重に合ったものを選定します。
  • クッションの使用: 車椅子や座位保持装置を使用する際にも、座面や背もたれに体圧分散クッションを使用することで、褥瘡の発生リスクを低減できます。

2. 皮膚の管理

  • 清潔の保持: 排泄物や汗などで皮膚が汚れた場合は、速やかに清拭し、清潔を保ちます。皮膚のバリア機能を維持するため、刺激の少ない洗浄剤を使用することが推奨されます。
  • 保湿: 皮膚の乾燥は、バリア機能の低下を招き、褥瘡のリスクを高めます。入浴後や清拭後には、保湿剤を塗布し、皮膚を健やかに保ちます。
  • 観察: 毎日、皮膚の状態を注意深く観察し、発赤、熱感、疼痛などの褥瘡の初期兆候を見逃さないようにします。特に、骨突出部(仙骨、踵、肘、肩甲骨など)は注意深く観察する必要があります。

3. 栄養管理

タンパク質やビタミン、ミネラルは、皮膚の健康と組織の修復に不可欠です。十分な栄養摂取は、褥瘡の予防と治癒を促進します。必要に応じて、管理栄養士による栄養指導や経腸栄養、静脈栄養の検討も行われます。

4. 早期離床・歩行

可能であれば、早期にベッドから離れて座位や立位をとることは、体圧を分散させるだけでなく、血行を促進し、組織の代謝を活発にするため、褥瘡予防に有効です。リハビリテーションの目標としても、早期離床・歩行は重要視されます。

肺炎の予防

リハビリテーション中の患者さんは、嚥下機能の低下、咳嗽反射の鈍麻、喀痰喀出困難などから、肺炎(特に誤嚥性肺炎)のリスクが高まります。肺炎は、回復の遅延や重篤な状態に至る可能性があるため、予防策は極めて重要です。

1. 嚥下機能の評価と管理

  • 嚥下機能評価: 摂食・嚥下機能は、医師、言語聴覚士、看護師、管理栄養士などが連携して定期的に評価します。
  • 誤嚥予防: 評価結果に基づき、食事形態(刻み食、ミキサー食、とろみ調整など)の調整、食事姿勢の指導(座位保持、前傾姿勢など)、食介助の実施など、誤嚥を防ぐための対策を講じます。
  • 口腔ケア: 口腔内の清潔を保つことは、細菌の増殖を抑え、誤嚥時の肺炎リスクを低減します。食前・食後の丁寧な口腔ケア、必要に応じた専門的な口腔ケアを行います。

2. 呼吸機能の維持・向上

  • 呼吸訓練: 腹式呼吸、口すぼめ呼吸などの呼吸訓練は、呼吸筋を強化し、換気を促進します。
  • 排痰ケア: 痰が溜まりやすい患者さんには、体位ドレナージ(重力を使って痰を排出しやすくする)、吸引、ハッスル(咳嗽を誘発する)などの方法で、効果的な排痰を促します。
  • 早期離床・歩行: 臥床期間が長くなると、肺の容積が減少し、痰が溜まりやすくなります。早期の離床や歩行は、呼吸機能を維持・向上させ、肺炎予防につながります。
  • 加湿: 室内や呼吸器回路の加湿は、気道の乾燥を防ぎ、痰の粘稠度を下げ、喀出を容易にします。

3. 免疫機能の維持

十分な栄養摂取と適切な休息は、免疫機能を維持し、感染症にかかりにくい体を作ります。リハビリテーションの進行と並行して、患者さんの全身状態を良好に保つことが重要です。

4. 禁煙

喫煙は、気道の線毛運動を阻害し、痰の排出を妨げるため、肺炎のリスクを高めます。リハビリテーション期間中の禁煙指導は、長期的な健康増進にもつながります。

その他の合併症予防と配慮事項

褥瘡と肺炎以外にも、リハビリテーション期間中には様々な合併症のリスクがあります。これらを予防し、安全で効果的なリハビリテーションを提供するためには、以下のような点も重要となります。

1. 転倒・転落予防

  • 環境整備: 病室やリハビリテーション室の環境を整え、段差の解消、手すりの設置、滑りにくい床材の使用などを徹底します。
  • 履物の選択: 適切な滑り止め付きの靴を履くように指導します。
  • 介助の適切性: 移乗や歩行時の介助は、患者さんの状態に合わせて適切に行います。
  • 運動指導: バランス能力や筋力の向上を目指したリハビリテーションは、転倒予防に直接つながります。

2. 深部静脈血栓症(DVT)および肺塞栓症(PE)予防

  • 早期離床・歩行: 血流を促進し、血栓の形成を防ぎます。
  • 弾性ストッキング・弾性包帯の使用: 下肢の静脈還流を助けます。
  • 間欠的空気圧迫装置(IPC): 下肢を交互に圧迫し、血流を改善します。
  • 水分補給: 十分な水分摂取は、血液の粘稠度を下げ、血栓リスクを低減します。
  • 抗凝固療法: リスクの高い患者さんには、医師の判断により抗凝固薬が処方されることがあります。

3. 筋力低下・関節拘縮の予防

  • 積極的なリハビリテーション: 個々の患者さんの状態に合わせた運動療法を継続的に行います。
  • 関節可動域訓練(ROM訓練): 受動的・能動的なROM訓練を行い、関節の動きを維持・改善します。
  • 装具の活用: 必要に応じて、装具(スプリント、装具など)を使用して、関節の変形や拘縮を予防します。

4. 感染症予防

手洗いの励行、共有物品の消毒、患者さんの隔離が必要な場合は適切に行うなど、院内感染対策の基本を遵守することが重要です。

5. 精神的なサポート

リハビリテーションは、肉体的な負担だけでなく、精神的な負担も伴います。患者さんの不安や孤立感に寄り添い、精神的なサポートを行うことも、合併症予防という観点から重要です。良好な精神状態は、リハビリテーションへの意欲を高め、回復を促進します。

まとめ

リハビリテーションにおける合併症予防は、患者さんの安全かつ効果的な回復のために極めて重要です。褥瘡や肺炎などの具体的な合併症に対しては、体圧分散、皮膚管理、嚥下機能評価、呼吸機能維持、栄養管理、口腔ケアなど、多岐にわたる予防策が実施されます。これらの予防策は、個々の患者さんの状態やリスク因子を慎重に評価した上で、個別化された計画に基づいて行われる必要があります。医療従事者間の密接な連携はもちろんのこと、患者さんご本人やご家族の理解と協力も、合併症予防を成功させるための鍵となります。継続的な観察、評価、そして適切な介入を通じて、合併症のリスクを最小限に抑え、患者さんが最大限の回復を遂げられるよう努めることが、リハビリテーション医療の重要な責務と言えます。