脳卒中後の復職支援とリハビリ
脳卒中とは
脳卒中は、脳の血管に問題が生じることで、脳の組織に損傷が起こる病気です。主な原因としては、脳の血管が詰まる脳梗塞、脳の血管が破れる脳出血、脳の血管にこぶができそれが破れるくも膜下出血があります。
脳卒中によって脳の機能が損なわれると、身体の麻痺、言語障害、認知機能の低下、感情のコントロールの困難さなど、様々な後遺症が残ることがあります。
復職支援の重要性
脳卒中からの回復には、医療的な治療とリハビリテーションが不可欠ですが、その後の社会生活への復帰、すなわち復職は、患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)の向上、経済的な自立、そして精神的な健康を保つ上で非常に重要な意味を持ちます。
復職は、単に仕事に戻るということだけでなく、失われた自信を取り戻し、社会との繋がりを再構築するプロセスでもあります。そのため、個々の患者さんの状態に合わせた、きめ細やかな支援体制が求められます。
リハビリテーションの段階と内容
脳卒中後のリハビリテーションは、一般的に急性期、回復期、維持期・生活期という段階を経て行われます。
急性期リハビリテーション
脳卒中発症直後、病状が安定するまでの間に行われます。早期からベッドサイドでの離床、座位保持訓練、嚥下訓練、摂食訓練などを開始し、合併症(褥瘡、肺炎、深部静脈血栓症など)の予防に努めます。
早期離床は、筋力低下や関節拘縮を防ぎ、全身状態の維持に貢献します。嚥下訓練は、誤嚥性肺炎のリスクを軽減し、安全な栄養摂取を可能にします。摂食訓練は、食事の楽しみを取り戻し、栄養状態の改善を図ります。
回復期リハビリテーション
病状が安定し、リハビリテーションの専門病院や回復期リハビリテーション病棟へ転院して集中的に行われます。運動療法、作業療法、言語聴覚療法などを中心に、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)や、さらに進んで、趣味活動や社会参加に必要な活動(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)の回復を目指します。
- 運動療法:麻痺した手足の機能回復、歩行能力の改善、バランス能力の向上などを目的とします。理学療法士が、個々の麻痺の程度や症状に合わせて、関節可動域訓練、筋力増強訓練、歩行訓練、バランス訓練などを実施します。
- 作業療法:日常生活動作(食事、着替え、入浴、排泄など)を自分で行えるように、また、趣味や仕事に関連する作業活動への参加を可能にするための訓練を行います。上肢機能訓練、認知機能訓練、居家生活訓練、調理訓練なども含まれます。
- 言語聴覚療法:失語症、構音障害、嚥下障害など、コミュニケーションや摂食・嚥下に関わる機能の回復を目指します。
この時期には、多職種連携が非常に重要です。医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、栄養士などがチームを組み、患者さん一人ひとりの目標達成に向けて、情報共有と協働を行います。
維持期・生活期リハビリテーション
回復期リハビリテーションを終えた後も、退院後、自宅や地域社会で継続的にリハビリテーションを行うことが重要です。自宅での自主トレーニング、外来リハビリテーション、デイケア、デイサービス、訪問リハビリテーションなどを活用し、機能の維持・向上、社会参加の促進を図ります。
地域連携もこの時期には重要になります。かかりつけ医、地域の医療機関、介護サービス事業者、NPO法人などと連携し、患者さんの生活を包括的にサポートします。
復職支援の具体的なアプローチ
リハビリテーションの過程と並行して、復職に向けた支援も進められます。そのアプローチは多岐にわたります。
就労前評価とカウンセリング
復職を検討するにあたり、まず患者さんの現在の身体機能、認知機能、精神状態、そして希望する職種や業務内容などを総合的に評価します。この評価に基づき、専門職(医師、リハビリスタッフ、キャリアコンサルタントなど)がカウンセリングを行い、現実的な目標設定や、復職に向けた課題の洗い出しを行います。
職場との連携
可能であれば、職場との情報共有や連携が不可欠です。患者さんの同意を得た上で、主治医やリハビリ担当者が、職場の人事担当者や上司に、患者さんの状態や配慮事項などを説明することがあります。
職場環境の調整も重要な要素です。例えば、デスクの高さの調整、休憩時間の確保、移動のサポート、業務内容の軽減や変更などが考えられます。
段階的な復職
いきなりフルタイムで復帰することが難しい場合、試用期間を設ける、短時間勤務から始める、週の勤務日数を徐々に増やすといった段階的な復職を検討します。これにより、身体的・精神的な負担を軽減しながら、仕事への適応を図ることができます。
就労支援サービスの活用
ハローワークなどの公的機関や、民間の就労支援機関では、脳卒中後の就労に関する相談や、求職活動のサポート、職業訓練の斡旋などを行っています。
障害者手帳の取得が、就労支援サービスを受ける上で有利になる場合もあります。手帳の取得により、企業からの採用に関する優遇措置や、各種支援制度の利用が可能になります。
経済的なサポート
長期にわたる治療やリハビリテーション、そして休職期間中は、経済的な不安が生じることがあります。障害年金、傷病手当金、失業保険、雇用保険などの公的制度の活用や、職場での休職制度、復職支援制度などを確認し、経済的な基盤を整えることが重要です。
精神的なサポート
脳卒中による後遺症だけでなく、復職への不安、周囲からの見られ方への心配など、精神的な負担は大きいものです。患者さん本人だけでなく、ご家族へのサポートも重要です。心理カウンセリング、患者会への参加、家族会などを通じて、精神的なケアを行います。
復職を成功させるために
復職は、患者さん一人ひとりの状況や、職場の環境、そして周囲のサポート体制によって、その道のりは大きく異なります。
- 諦めない姿勢:困難に直面しても、諦めずに、利用できる支援を積極的に活用していくことが大切です。
- 自己管理:体調管理、服薬管理、リハビリの継続など、自己管理能力を高めることが、復職後の安定した就労に繋がります。
- 周囲への働きかけ:自身の状況や必要な配慮について、職場や家族に伝え、理解と協力を得ることが重要です。
- 柔軟な考え方:以前と同じ働き方ができない場合でも、業務内容の変更や、新たな職種への挑戦など、柔軟な視点を持つことが、復職の可能性を広げます。
まとめ
脳卒中後の復職支援は、単なる医療行為にとどまらず、患者さんが再び社会の一員として、尊厳を持って生活していくための包括的なサポートです。リハビリテーションによる身体機能の回復、そして個々の能力や適性に合わせた職場への復帰支援が、両輪となって進められる必要があります。関係者間の密な連携と、患者さん自身の主体的な取り組みが、復職という目標達成への鍵となります。
