腱鞘炎(ドケルバン病)のリハビリと日常生活の工夫
ドケルバン病は、手首の親指側にある腱鞘(けんしょう)に炎症が起こり、痛みや腫れを生じる疾患です。親指を伸ばしたり広げたりする動作で特に痛みが強くなり、日常生活に支障をきたすことがあります。
リハビリテーションの目的と段階
ドケルバン病のリハビリテーションの主な目的は、痛みの軽減、炎症の抑制、機能の回復、そして再発予防です。リハビリは、一般的に以下の段階を経て進められます。
急性期:炎症の抑制と痛みの軽減
この段階では、まず炎症と痛みを抑えることが最優先されます。:
- 安静: 患部への負担を減らすため、親指や手首の過度な使用を避けます。必要であれば、装具(シーネやサポーター)を使用して手首を固定し、安静を保ちます。
- 冷却療法: 炎症を抑えるために、患部を冷やします。保冷剤や氷嚢などをタオルで包み、1回15~20分程度、1日数回行います。
- 薬物療法: 医師の処方に基づき、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬や外用薬(湿布、塗り薬)を使用し、痛みを和らげ、炎症を抑えます。
- 超音波療法や電気療法: 医療機関では、超音波療法や低周波治療などの物理療法が痛みの軽減や血行促進のために行われることがあります。
回復期:可動域の改善と筋力強化
痛みが落ち着いてきたら、徐々に手首や親指の動きを回復させ、弱くなった筋力を強化していきます。:
- ストレッチング: 腱や周囲の組織の柔軟性を高め、可動域を広げるためのストレッチを行います。
- 手首の屈曲・伸展運動: 手のひらを下に向けて手首をゆっくりと上下に曲げ伸ばしします。
- 手首の橈屈・尺屈運動: 手のひらを上に向けて、手首を親指側(橈側)と小指側(尺側)にゆっくりと倒します。
- 親指の伸展・内転運動: 親指をゆっくりと上に伸ばしたり、手のひらに近づけたりします。
- 母指対立運動: 親指の先を各指の先に順番に触れるように動かします。
いずれのストレッチも、痛みを感じない範囲で行い、ゆっくりと呼吸をしながら行うことが重要です。反動をつけず、心地よい伸びを感じる程度に留めます。
- 筋力トレーニング: 腱を支える筋肉を強化し、手首の安定性を高めます。
- ゴムバンドを用いたエクササイズ: ゴムバンドを指にかけ、指を開いたり閉じたりする運動は、指や手首の筋力強化に有効です。
- セラバンドを用いた手首の運動: セラバンドなどを利用して、手首を様々な方向に動かす抵抗運動を行います。
- 軽度の負荷での握力トレーニング: 柔らかいボールなどを軽く握る運動から始め、徐々に負荷を上げていきます。
トレーニングの開始時期や負荷は、専門家の指示に従い、無理のない範囲で徐々に行うことが大切です。過度な負荷は症状を悪化させる可能性があります。
- 手作業の練習: 日常生活でよく行う動作(物をつかむ、ボタンをかけるなど)を、痛みのない範囲で徐々に再開していきます。
維持期・再発予防期:機能の維持と再発防止
症状が改善したら、良好な状態を維持し、再発を防ぐための取り組みを行います。:
- 継続的なストレッチと運動: 良好な状態を維持するため、回復期で行ったストレッチや筋力トレーニングを習慣化します。
- 作業動作の見直し: 痛みを引き起こす原因となった作業動作や、手首に負担のかかる姿勢を特定し、改善策を講じます。
- 適切な装具の使用: 負担のかかる作業を行う際に、一時的にサポーターなどを使用することも有効です。
- セルフケアの習慣化: 日常生活の中で、こまめな休憩や、患部のケア(温める・冷やすなど)を意識的に行います。
日常生活での工夫
ドケルバン病の症状を軽減し、快適な日常生活を送るためには、日々の生活習慣の見直しと工夫が不可欠です。:
- 手首への負担を減らす:
- 重い物を持つ際の注意: 重い物を持つ際は、片手で親指に負担がかかるような持ち方を避け、両手で抱えるようにしたり、補助具を使用したりします。
- 手首をひねる動作の回避: 瓶の蓋を開ける、雑巾を絞るなどの手首をひねる動作は、痛みを引き起こしやすいので、可能な限り避けるか、軽減できる方法を工夫します。例えば、オープナーの使用や、力を抜いて手首を固定してから行うなどが考えられます。
- 長時間同じ作業を続けない: パソコン作業や読書など、長時間同じ姿勢で手首を使用する作業は、こまめに休憩を取り、手や手首を軽く動かしたり、ストレッチをしたりします。
- 作業環境の改善:
- 道具の選択: 筆記具は太めのものを選ぶ、包丁は柄が持ちやすいものを選ぶなど、手に負担のかかりにくい道具を選びます。
- キーボードやマウスの配置: パソコン作業では、キーボードやマウスを体に近づけ、手首が自然な角度になるように配置を調整します。リストレストの使用も検討します。
- 就寝時の工夫:
- 寝返りによる圧迫の回避: 就寝中に無意識に患部を圧迫しないように、クッションなどを活用して患部を保護します。
- 手首を楽な姿勢で保つ: 必要であれば、就寝時も装具を使用して手首を安静に保つことが有効な場合があります。
- 温熱療法・冷却療法:
- 温める場合: 痛みが慢性化している場合や、筋肉の緊張を和らげたい場合は、蒸しタオルや温かいシャワーなどで患部を温めることが有効な場合があります。血行が促進され、痛みの緩和につながることがあります。
- 冷やす場合: 急性期や、運動後、痛みが強く出た場合には、冷却療法が有効です。炎症を抑え、痛みを軽減します。
どちらの療法が適しているかは、症状によって異なります。自己判断が難しい場合は、医師や理学療法士に相談することが重要です。
- ストレス管理: 精神的なストレスも身体の緊張を高め、痛みを悪化させることがあります。リラクゼーション法を取り入れたり、趣味などで気分転換を図ったりすることも大切です。
まとめ
ドケルバン病のリハビリテーションは、急性期の炎症抑制から始まり、回復期での可動域改善・筋力強化、そして維持期での再発予防へと段階的に進められます。リハビリテーションと並行して、日常生活においては、手首への負担を減らすための動作の工夫、作業環境の改善、そして適切なケアを習慣化することが、症状の改善と再発防止のために極めて重要です。痛みの程度や原因は個人によって異なるため、必ず専門医の診断を受け、個々の状態に合わせたリハビリテーション計画と日常生活での工夫を実践していくことが、早期回復への近道となります。
