顎関節症のリハビリ:口の開け閉め訓練

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顎関節症リハビリテーション:開口訓練と併用療法

顎関節症は、顎の関節やその周囲の筋肉に痛みや機能障害が生じる疾患です。そのリハビリテーションは、症状の緩和、機能回復、再発予防を目的として行われます。中でも、開口訓練は、顎の可動域を広げ、スムーズな開閉運動を取り戻すために非常に重要な役割を果たします。

本稿では、顎関節症のリハビリテーションにおける開口訓練に焦点を当て、その具体的な方法、実施上の注意点、そして開口訓練を効果的に進めるための併用療法について、詳細に解説します。

開口訓練の目的と重要性

開口訓練の主な目的は、以下の通りです。

  • 顎関節の可動域の改善:硬くなった顎関節や周囲の筋肉をストレッチし、口を大きく開けられるようにします。
  • 疼痛の軽減:関節や筋肉への過度な負担を減らすことで、痛みを和らげます。
  • 咀嚼機能の回復:食事をスムーズに行えるように、口の開閉動作を改善します。
  • 顎の安定性の向上:顎の動きをコントロールする筋肉を強化し、不安定感を軽減します。

開口訓練は、顎関節症の治療において、症状の根本的な改善につながる可能性のある、積極的なリハビリテーションの一つです。自己判断で行うのではなく、専門家の指導のもと、適切な方法で継続することが成功の鍵となります。

開口訓練の具体的な方法

開口訓練は、その方の症状や進行度合いによって、様々な方法が用いられます。ここでは、代表的な開口訓練の方法をいくつかご紹介します。

1. 指を使った開口訓練

これは最も基本的な開口訓練の一つです。指の数で開口量を段階的に増やしていきます。

  • 準備:清潔な指を準備します。
  • 方法:
    • まず、指1本を縦にして、歯と歯の間にゆっくりと差し込み、口を無理なく開けられる範囲で開けます。
    • 痛みを感じない範囲で、10秒程度キープします。
    • ゆっくりと指を抜き、口を閉じます。
    • これを数回繰り返します。
    • 慣れてきたら、指2本、指3本と、無理のない範囲で徐々に指の数を増やしていきます。
  • 注意点:
    • 決して無理に開けようとしないこと。痛みを感じたらすぐに中止してください。
    • ゆっくりと、リズミカルに行うことが大切です。
    • 鏡を見ながら行うと、顎の動きを確認しやすくなります。

2. スプレッダー(開口補助具)を用いた訓練

市販されている、または歯科医院で処方されるスプレッダー(開口補助具)を使用する方法です。一定の力で口を開けることができるため、より効果的なストレッチが期待できます。

  • 準備:スプレッダーを清潔にし、使用方法を理解します。
  • 方法:
    • スプレッダーのサイズや形状は、個々の状態に合わせて選択されます。
    • スプレッダーを口の中に設置し、ゆっくりと、かつ着実に開口していきます。
    • 目標とする開口量に達したら、一定時間保持します。
    • ゆっくりとスプレッダーを抜き、口を閉じます。
    • これを指定された回数繰り返します。
  • 注意点:
    • 専門家の指導のもと、適切なサイズのスプレッダーを選択し、使用方法を習得してください。
    • 過度な力で開けようとすると、かえって顎関節に負担をかける可能性があります。
    • 使用後の清掃を徹底し、衛生的に保ちましょう。

3. 舌を使った開口訓練

舌を上あごに押し当てることで、顎の筋肉をリラックスさせ、自然な開口を促す方法です。

  • 準備:リラックスした状態で行います。
  • 方法:
    • 舌の先を上あごの口蓋(天井部分)に軽く押し当てます。
    • そのまま、無理なく口を開けていきます。
    • 舌が支えとなることで、自然な開口が促されます。
    • 痛みのない範囲で、数秒間キープします。
    • ゆっくりと口を閉じます。
    • これを繰り返します。
  • 注意点:
    • 舌の力で無理に開けようとしないこと。
    • リラックスして行うことが重要です。

4. 顎のストレッチ運動

顎関節周囲の筋肉の緊張を和らげるためのストレッチです。

  • 準備:リラックスできる姿勢をとります。
  • 方法(例):
    • 頬の筋肉のストレッチ:口を軽く開け、人差し指で頬骨の下あたりを優しく押さえ、口を閉じるようにしながら、頬の筋肉を伸ばします。
    • こめかみの筋肉のストレッチ:こめかみあたりを指で円を描くように優しくマッサージします。
    • 首の後ろのストレッチ:顎を軽く引き、首の後ろをゆっくりと伸ばします。
  • 注意点:
    • 力を入れすぎないこと。
    • 痛みを感じたらすぐに中止してください。
    • 呼吸を止めずに行いましょう。

開口訓練実施上の注意点

開口訓練を安全かつ効果的に行うためには、以下の点に十分注意する必要があります。

  • 専門家の指導:必ず歯科医師や歯科衛生士などの専門家の診断と指導のもとで実施してください。自己判断での訓練は、症状を悪化させる可能性があります。
  • 痛みの管理:訓練中に痛みを感じた場合は、すぐに中止してください。無理な運動は、炎症を悪化させる原因となります。
  • 段階的な進歩:一度に無理な開口量を目指さず、徐々に、段階的に進めていくことが大切です。
  • 継続性:効果を実感するためには、日々の継続が不可欠です。決められた回数や時間を守り、習慣化しましょう。
  • リラクゼーション:訓練前後に、リラックスするための深呼吸や軽いマッサージを取り入れると、筋肉の緊張が和らぎ、効果が高まります。
  • 食事:訓練中は、顎に負担のかかる硬いものや、大きく口を開けないと食べられないものは避け、柔らかく、小さく切ったものを選ぶようにしましょう。
  • 姿勢:正しい姿勢を保つことも、顎関節への負担を軽減する上で重要です。

開口訓練を効果的に進めるための併用療法

開口訓練の効果を最大限に引き出すためには、他の治療法と組み合わせて行うことが一般的です。これを併用療法と呼びます。

1. 物理療法

温熱療法や冷却療法、電気療法などを利用して、顎関節周囲の筋肉の緊張緩和や炎症の抑制を図ります。

  • 温熱療法:温かいタオルやホットパックなどで患部を温めることで、血行を促進し、筋肉の緊張を和らげます。開口訓練の前に行うと、筋肉が柔らかくなり、より効果的に開口できるようになります。
  • 冷却療法:急性の炎症や痛みが強い場合に有効です。炎症を抑え、痛みを軽減します。

2. 薬物療法

痛みが強い場合や炎症が認められる場合には、医師の処方により、消炎鎮痛剤や筋弛緩剤などが用いられることがあります。

  • 消炎鎮痛剤:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが、痛みの軽減や炎症の抑制に用いられます。
  • 筋弛緩剤:顎の筋肉の過度な緊張を和らげ、開口訓練を行いやすくします。

3. マウスピース(スプリント)療法

就寝時や日中に装着することで、顎関節への負担を軽減し、歯ぎしりや食いしばりによる悪影響を防ぎます。これにより、顎関節の安静を保ち、開口訓練の効果を高めることが期待できます。

  • 型取り:個々の歯並びに合わせて作製される、カスタムメイドのスプリントが一般的です。
  • 装着:専門家の指示に従い、正しく装着・管理することが重要です。

4. 運動療法(姿勢指導、ストレッチ)

前述の顎のストレッチ運動に加え、全身の姿勢を整えることも、顎関節への負担軽減につながります。

  • 猫背やストレートネックは、顎関節に不自然な力がかかりやすくなります。
  • 正しい姿勢を意識することで、顎関節にかかる負担を軽減し、開口訓練の効果を高めることができます。

5. 生活指導

日々の生活習慣の見直しも、顎関節症の改善には欠かせません。

  • 食生活:硬い食べ物や粘着性の高い食べ物を避ける、一口で食べられるサイズにするなどの工夫が必要です。
  • 癖の改善:頬杖、うつぶせ寝、歯ぎしり・食いしばりなどの癖は、意識して改善することが大切です。
  • ストレス管理:ストレスは、無意識のうちに歯を食いしばる原因となることがあります。リラクゼーション法などを取り入れ、ストレスを適切に管理しましょう。

まとめ

顎関節症のリハビリテーションにおける開口訓練は、顎の機能回復に不可欠な要素です。その効果を最大限に引き出すためには、専門家の指導のもと、痛みのない範囲で段階的に、そして継続的に行うことが重要です。また、物理療法、薬物療法、マウスピース療法、運動療法、生活指導といった併用療法を組み合わせることで、より包括的かつ効果的な治療が可能となります。ご自身の症状に合わせた最適なリハビリテーション計画を専門家と共に立て、焦らず、着実に改善を目指していきましょう。