高齢者の脊椎圧迫骨折後のリハビリテーション
高齢者の脊椎圧迫骨折は、骨粗鬆症などを背景に、日常生活における軽微な外力(くしゃみ、咳、立ち上がり動作など)でも発生しうる骨折です。早期の疼痛緩和と機能回復を目指すために、専門的なリハビリテーションが不可欠となります。ここでは、高齢者の脊椎圧迫骨折後のリハビリテーションについて、その進め方、注意点、そして日常生活への復帰に向けたポイントを解説します。
リハビリテーションの目標
脊椎圧迫骨折後のリハビリテーションの主な目標は以下の通りです。
- 疼痛の軽減とコントロール:骨折による痛みを早期に和らげ、日常生活動作への支障を最小限にします。
- spinal stability の回復:骨折部位の安定性を高め、さらなる圧迫骨折や変形を防ぎます。
- 筋力・柔軟性の維持・向上:体幹や下肢の筋力低下を防ぎ、活動性を維持・向上させます。
- 日常生活動作 (ADL) の改善:起き上がり、座る、立つ、歩くといった基本的な動作を安全かつ効率的に行えるようにします。
- 転倒予防:骨折後の姿勢変化や筋力低下により転倒リスクが高まるため、バランス能力の向上や環境調整を行います。
- 精神面のサポート:骨折による痛みや活動制限は、高齢者の意欲低下や抑うつを引き起こす可能性があります。精神的なケアも重要です。
リハビリテーションの段階
リハビリテーションは、患者さんの状態に合わせて段階的に進められます。
急性期(骨折直後~疼痛が強い時期)
この時期の主眼は、安静と疼痛管理です。
- 安静度:基本的にはベッド上での安静が指示されますが、過度な安静は筋力低下を招くため、医師の指示のもと、可能な範囲での早期離床が推奨される場合もあります。
- 体位変換:疼痛を増強させない体位(仰臥位、側臥位など)を指導します。
- 疼痛コントロール:鎮痛剤の使用や、温熱療法、電気療法などを用いて痛みを軽減させます。
- 呼吸理学療法:深呼吸や腹式呼吸などを行い、肺炎などの合併症を予防します。
- 軽微な関節可動域訓練:ベッド上で行える、末梢の関節(手足の指など)の運動を行います。
回復期(疼痛が軽減し、活動性が増す時期)
疼痛が落ち着いてきたら、徐々に活動性を高めていきます。
- 座位・起立訓練:ベッドサイドでの座位保持、そこからの立ち上がり練習を行います。この際、コルセットなどの装具が処方されることもあり、その適切な使用方法も指導されます。
- 歩行訓練:補助具(歩行器、杖など)を使用しながら、短い距離からの歩行練習を開始します。歩行時の姿勢や足の運び方などを指導します。
- 体幹筋力強化訓練:腹筋、背筋、骨盤周囲の筋力を、安全な範囲で強化していきます。最初は腹臥位での軽い運動から始め、徐々に負荷を増やしていきます。
- 関節可動域訓練:疼痛のない範囲で、体幹や股関節、肩関節などの可動域を維持・改善させます。
- 日常生活動作 (ADL) 訓練:食事、着替え、トイレ動作などを、安全かつ自立して行えるように練習します。
維持期・社会復帰期(日常生活への完全復帰を目指す時期)
日常生活における活動レベルをさらに向上させ、社会参加を促します。
- 筋力・持久力トレーニング:より負荷の高い運動や、持久力を要する運動(ウォーキング、軽いエアロビクスなど)を取り入れます。
- バランストレーニング:片脚立位、タンデム歩行など、バランス能力をさらに向上させる訓練を行います。
- 日常生活動作の応用訓練:階段昇降、坂道歩行、物を持ち上げる動作など、より複雑な動作の練習を行います。
- 自宅環境の評価と指導:自宅での転倒リスクを評価し、手すりの設置や段差の解消などの環境整備についてアドバイスします。
- 趣味活動への復帰支援:以前行っていた趣味活動(園芸、散歩、軽いスポーツなど)への復帰をサポートします。
- 骨粗鬆症の管理指導:再骨折予防のために、食事指導、運動療法、薬剤療法(カルシウム・ビタミンD、ビスフォスフォネート製剤など)の継続について指導します。
リハビリテーションにおける注意点
高齢者の脊椎圧迫骨折後のリハビリテーションでは、以下の点に特に注意が必要です。
- 疼痛の訴えへの丁寧な対応:痛みが強いと、患者さんは運動を避けてしまいがちです。痛みを我慢させずに、適切な疼痛管理を行いながら、安全な範囲で運動を進めることが重要です。
- 骨折部位への過負荷の回避:急激な動きや、骨折部位に負担のかかる動作は避ける必要があります。理学療法士や作業療法士の指示を厳守することが大切です。
- 姿勢の保持:骨折後の姿勢の変化(円背など)は、さらなる腰痛や呼吸機能の低下につながる可能性があります。正しい姿勢を意識し、体幹筋を鍛えることが重要です。
- 転倒予防策の徹底:骨折の既往がある方は、骨粗鬆症が進行している可能性が高く、転倒による骨折リスクも高まります。
- 屋内環境の整備:段差の解消、手すりの設置、滑りにくい床材の使用、夜間の照明確保などを検討します。
- 履物の選択:滑りにくく、足に合った靴を選びます。
- 体調管理:めまいやふらつきがある場合は、無理な外出を避け、医師に相談します。
- 精神面のサポート:骨折による長期の安静や活動制限は、孤独感や不安感を引き起こすことがあります。家族や医療スタッフによる声かけや励ましが重要です。
- 自己管理能力の向上:自宅で安全に運動を継続できるような指導を行います。運動メニューの作成、自己チェックリストの活用などを検討します。
- 継続的な医療連携:整形外科医、リハビリテーション科医、理学療法士、作業療法士、看護師、栄養士、場合によっては薬剤師やソーシャルワーカーなど、多職種が連携して包括的なケアを提供することが望ましいです。
日常生活への復帰に向けて
リハビリテーションの成果を日常生活に活かすためには、以下の点が重要です。
- 安全な動作の習得:起き上がり、立ち上がり、歩行、着替え、入浴、排泄など、日常生活における一連の動作を、安全かつ効率的に行えるように練習を重ねます。
- 「無理をしない」ことの重要性:痛みを感じたり、疲労が溜まっている場合は、無理をせず休息を取ることが大切です。
- 適度な運動の継続:回復期以降も、日常生活の中に適度な運動を取り入れ、筋力や柔軟性を維持・向上させることが、再骨折予防や健康維持につながります。
- 骨粗鬆症の管理の継続:処方された薬剤の服用、カルシウムやビタミンDを豊富に含む食事の摂取、適度な日光浴などを継続します。
- 社会参加の促進:孤立を防ぎ、生活の質を向上させるために、友人との交流や趣味活動、地域活動への参加を促します。
まとめ
高齢者の脊椎圧迫骨折後のリハビリテーションは、急性期、回復期、維持期と段階を踏んで進められます。疼痛管理、 spinal stability の回復、筋力・柔軟性の維持・向上、ADLの改善、転倒予防、そして精神面のサポートといった多角的なアプローチが求められます。患者さん一人ひとりの状態や生活背景に合わせた、個別性の高いリハビリテーション計画を立て、多職種が連携してサポートしていくことが、安全かつ効果的な機能回復と、その後の健やかな生活への復帰に繋がります。ご家族の理解と協力も、リハビリテーションを成功させる上で非常に重要な要素となります。
