高齢者の嚥下機能を高める簡単な体操

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高齢者の嚥下機能を高めるための簡単な体操

高齢になると、加齢に伴う身体の変化や病気、服薬などの影響で、食事を飲み込む力(嚥下機能)が低下することがあります。嚥下機能の低下は、誤嚥性肺炎のリスクを高めたり、食事の楽しみを奪ったりするなど、生活の質(QOL)に大きく関わってきます。しかし、適切な体操やトレーニングを行うことで、嚥下機能を維持・向上させることが可能です。ここでは、自宅で簡単にできる高齢者向けの嚥下体操をご紹介します。

嚥下体操の重要性

嚥下は、口から食べ物や飲み物を食道へ送り込む、複雑な運動です。この運動には、唇、舌、頬、喉、食道など、多くの筋肉が協調して働く必要があります。加齢により、これらの筋肉の力や動きが衰えると、食べ物がうまく飲み込めなくなったり、気管に入ってしまったりする(誤嚥)リスクが高まります。

嚥下体操は、これらの嚥下に関わる筋肉を鍛え、その動きをスムーズにすることを目的としています。定期的に行うことで、以下の効果が期待できます。

  • 嚥下筋力の向上: 食べ物をしっかり噛み、送り込む力を高めます。
  • 舌の運動機能の改善: 舌をスムーズに動かし、食べ物を口の中でまとめ、喉へ送り込むのを助けます。
  • 喉の筋肉の強化: 食べ物が喉を通過する際に、気管を閉じる機能(喉頭挙上)を助け、誤嚥を防ぎます。
  • 唾液分泌の促進: 唾液は食べ物をまとめ、消化を助けるだけでなく、口腔内を清潔に保つ役割もあります。
  • 口腔内の感覚の改善: 口の中に食べ物があることを認識しやすくなります。

これらの効果により、安全に美味しく食事を楽しむことができ、誤嚥性肺炎の予防や、健康寿命の延伸につながります。

準備と注意点

嚥下体操を始める前に、いくつか準備しておきたいことや注意点があります。

  • リラックスした状態で行う: 椅子に座り、背筋を伸ばしてリラックスしましょう。
  • 無理のない範囲で: 痛みを感じたり、疲れたりした場合は、すぐに中止してください。
  • 水分補給: 体操の前後には、少量の水分を摂り、口腔内を潤しましょう。
  • 誤嚥に注意: 体操中にむせたり、気分が悪くなったりした場合は、無理せず中止し、必要であれば専門医に相談してください。
  • 継続が大切: 毎日、あるいは週に数回、決まった時間に行うことで、効果を実感しやすくなります。
  • 専門家への相談: 持病がある方や、嚥下機能に著しい低下が見られる場合は、医師や歯科医師、言語聴覚士などの専門家に相談し、個別の指導を受けることをお勧めします。

具体的な嚥下体操

ここでは、自宅で簡単に行える嚥下体操をいくつかご紹介します。各種体操は、10回程度を目安に行いましょう。

1. 唇の体操

唇は、食べ物が口からこぼれ出るのを防いだり、食べ物を口の中でまとめたりするのに重要な役割を果たします。

① 唇をすぼめる・開く運動
  • 方法: 唇を「う」の形にすぼめ、次に「へ」の形に横に開きます。これを繰り返します。
  • ポイント: 唇の周りの筋肉を意識しましょう。
② 唇を閉じる運動
  • 方法: 唇をしっかりと閉じ、そのまま数秒間キープします。
  • ポイント: 顎が前に出ないように注意し、口呼吸にならないように意識します。

2. 舌の体操

舌は、食べ物を口の中で動かし、噛み砕き、喉へと送り込む主役です。

① 舌を前後に出し入れする運動
  • 方法: 舌をできるだけ前に突き出し、次に奥に引き込みます。これを繰り返します。
  • ポイント: 舌の先端を意識し、大きく動かしましょう。
② 舌を左右に動かす運動
  • 方法: 舌を口の端から端へ、左右に動かします。
  • ポイント: 口角が動かないように、舌だけを動かすように意識しましょう。
③ 舌で頬を押し出す運動
  • 方法: 舌を頬の内側に当て、軽く押し出します。左右交互に行います。
  • ポイント: 頬の筋肉が内側から押されるのを感じましょう。
④ 舌で上あごをなぞる運動
  • 方法: 舌で上あごの天井を、前から後ろへとなぞります。
  • ポイント: 舌全体を使って、ゆっくりと丁寧に行いましょう。

3. 頬の体操

頬の筋肉は、食べ物を口の中に留めておく役割があります。

① 頬を膨らませる運動
  • 方法: 口をしっかり閉じ、両方の頬を風船のように膨らませます。そのまま数秒キープし、ゆっくりと息を吐き出します。
  • ポイント: 頬の筋肉が張るのを感じましょう。
② 頬を吸い込む運動
  • 方法: 口を少し開け、頬を内側に吸い込みます。そのまま数秒キープし、元に戻します。
  • ポイント: 頬がへこむのを感じましょう。

4. 喉の体操(喉頭挙上運動)

この体操は、嚥下時に喉が上がり、誤嚥を防ぐための大切な動きを促します。

① 飲み込む真似をする運動
  • 方法: 椅子に座り、首をまっすぐにして、食べ物を飲み込む動作をゆっくりと繰り返します。喉仏が上下するのを感じましょう。
  • ポイント: 実際に飲み込まず、喉の動きだけを意識します。
② シャキア・シャキア体操
  • 方法: 舌を上の歯の裏の付け根あたりにしっかりとつけ、「シャキ」と音を立てるように、舌を弾くように動かします。
  • ポイント: 喉の奥の筋肉を使うイメージで行います。

5. 唾液腺マッサージ

唾液の分泌を促すことで、口腔内が潤い、食事をスムーズに摂りやすくなります。

① 耳下腺マッサージ
  • 方法: 耳の少し下あたり(顎の関節の前方)を、人差し指と中指で優しく円を描くようにマッサージします。
  • ポイント: 唾液が出てくるのを感じましょう。
② 顎下腺マッサージ
  • 方法: 顎の骨の内側、やや後ろの方を親指で優しく押します。
  • ポイント: 舌の下あたりに唾液が出てくるのを感じましょう。

体操の効果を高めるために

嚥下体操の効果をさらに高めるためには、日常生活の中で意識することも大切です。

  • 食事中の姿勢: 椅子に座り、背筋を伸ばして、少し前かがみの姿勢で食事を摂りましょう。
  • 一口の量: 一度にたくさん口に運ばず、少量ずつ、よく噛んでゆっくりと食べましょう。
  • 食事への集中: テレビを見ながらや、人と話しながらの食事は避け、食事に集中しましょう。
  • 口腔ケア: 毎日の歯磨きや、舌ブラシを使ったケアで、口腔内を清潔に保ちましょう。

まとめ

高齢者の嚥下機能を高めるための体操は、特別な器具を必要とせず、自宅で手軽に始められます。今回ご紹介した体操を、無理のない範囲で継続して行うことで、嚥下能力の維持・向上、誤嚥の予防、そして食事をより楽しむことにつながります。ご自身の体調と相談しながら、楽しみながら取り組んでみてください。もし、嚥下に関する不安や症状がある場合は、専門家への相談をためらわないでください。