脳卒中後の肩の痛み(亜脱臼など)対策
脳卒中後の肩の痛みは、多くの場合、上肢の麻痺や感覚障害、筋力低下によって引き起こされます。特に、肩関節の亜脱臼は、日常生活における様々な動作で生じやすく、痛みを増強させる原因となります。この痛みを軽減し、機能回復を促進するためには、多角的なアプローチが必要です。
肩の痛みの原因とメカニズム
脳卒中後の肩の痛みは、単一の原因ではなく、複数の要因が複合的に影響しています。
麻痺と筋力低下による関節の不安定性
脳卒中により、肩周囲の筋肉(特に回旋筋腱板や三角筋)の麻痺や筋力低下が生じると、肩関節を適切に保持する力が失われます。これにより、肩甲骨と上腕骨の関節(肩関節)が不安定になり、亜脱臼を引き起こしやすくなります。
過度な牽引力
麻痺した腕を不適切に引っ張ったり、介助の際に腕をつり上げるような動作は、肩関節に過度な牽引力を与え、亜脱臼や痛みを誘発します。
腱板の損傷・炎症
亜脱臼や不適切な姿勢、過度な運動などにより、肩の腱板(回旋筋腱板)に損傷や炎症が生じることがあります。これが四十肩・五十肩のような五十肩に似た症状を引き起こすこともあります。
中枢性の痛み(視床性痛など)
脳の損傷部位によっては、感覚を司る領域に異常が生じ、肩に実際には組織の損傷がないにも関わらず強い痛みを感じる中枢性の痛み(視床性痛など)が発生することがあります。
拘縮と可動域制限
麻痺した腕を動かさない期間が長くなると、関節や筋肉が硬くなり(拘縮)、肩の可動域が制限されます。これにより、日常的な動作が困難になり、痛みを伴う状態が悪化します。
対策の基本
脳卒中による肩の痛みへの対策は、痛みを軽減し、関節の機能を回復させることを目的とします。
専門家による評価と治療
最初に必要なのは、医師(脳神経内科、整形外科)、理学療法士、作業療法士などの専門家による正確な評価です。痛みの原因、亜脱臼の程度、麻痺の状態などを把握し、個別に最適な治療プランを立てる必要があります。
薬物による治療
痛みが強い場合は、消炎鎮痛剤(NSAIDs)や神経障害性・中枢性の痛みに効果のある薬剤が処方されることがあります。筋肉の痙縮(つっぱり)が痛みの原因となっている場合は、筋弛緩薬が有効なこともあります。
理学療法・作業療法
理学療法(PT)と作業療法(OT)は、肩の痛み対策の中心となります。
理学療法によるアプローチ
姿勢の改善と肩甲骨の安定化
麻痺した腕の重みで肩が下方へ引っぱられるのを防ぐために、体幹の安定と肩甲骨の正しい位置を保つ訓練が重要です。座位・立位での良好な姿勢を維持できるよう意識します。
運動療法
麻痺した筋肉の回復を目指し、段階的な運動を行います。
関節の可動域訓練(ROM訓練)
拘縮を予防し、関節の柔軟性を維持するために、他動的(療法士や家族が行う)および自動・自動介助(患者が自分で動かす、または一部を介助して動かす)運動を行います。
筋力強化訓練
麻痺した筋肉の機能を回復させるために、低負荷から開始し、徐々に負荷を増やしていきます。回旋筋腱板の強化は亜脱臼の予防に特に重要です。
協調性訓練
複数の筋肉が連携して動く能力(協調性)を高める訓練は、肩の運動を滑らかにし、負担を軽減します。
装具・サポーターの使用
肩の亜脱臼を予防したり、痛みを軽減するために、肩の装具(ポジショニングクッション、スリング、ブレースなど)が有効な場合があります。装具は医師や療法士の指示に従って適切に選択・使用する必要があります。
作業療法によるアプローチ
日常生活動作(ADL)への応用
作業療法士は、日常生活における食事、着替え、入浴、整容などの動作を通じて、肩の機能の改善を図ります。安全かつ効率的な動作を習得することで、肩への負担を減らします。
自助具の活用
片麻痺の方でも行いやすい食器、着脱しやすい衣服、柄の長いブラシなどの自助具を活用し、肩への負担を軽減します。
環境の整備
自宅の環境を整備し、安全で動作しやすい空間を作ることも、肩の痛み軽減に貢献します。
セルフケアと注意点
不適切な介助・動作の回避
麻痺した腕を不用意に引っ張ったり、不自然な体勢で無理に動かすことは、肩に非常に大きな負担をかけます。介助する側も十分な知識を持ち、慎重に行う必要があります。
温熱・冷却療法
痛みや炎症が強い場合は、温熱(温湿布、温かいタオルなど)で筋肉を緩和させたり、冷却(アイスパックなど)で炎症を抑えることが有効な場合があります。どちらが適しているかは状態によりますので、専門家に相談してください。
マッサージ
肩や背部の筋肉の緊張を和らげるマッサージは、血行を促進し、痛みを軽減する効果が期待できます。ただし、急性期や炎症が強い場合は避けた方が良い場合もあります。
精神的なケア
慢性的な痛みは精神的な負担も大きくします。家族や友人とのコミュニケーション、趣味の活動などを通じて、気持ちを前向きに保つことも大切です。
まとめ
脳卒中による肩の痛み(亜脱臼など)への対策は、単一の方法で解決するものではありません。専門家の評価のもと、薬物・理学療法・作業療法を組み合わせ、患者さん一人ひとりの状態に合わせた包括的なアプローチが不可欠です。早期の介入と継続的なリハビリテーション、そしてご本人とご家族の積極的な関与が、痛みの軽減と機能の回復に繋がります。
