前十字靭帯損傷(ACL)の手術前後のリハビリ

ピラティス・リハビリ情報

前十字靭帯(ACL)損傷の手術前後のリハビリテーション

前十字靭帯(ACL)損傷は、スポーツ活動中に多く発生する膝の怪我であり、断裂した場合は手術による再建術が一般的です。手術後の早期回復と、最終的なスポーツへの復帰のためには、周到なリハビリテーションが不可欠となります。本稿では、ACL損傷の手術前および手術後のリハビリテーションについて、その段階、目標、具体的な内容、そして留意点などを解説します。

手術前リハビリテーション(術前リハビリ)

手術前のリハビリテーションは、「術前リハビリ」と呼ばれ、手術の成功と術後の回復を円滑に進めるための重要な準備段階です。

目的

* 炎症の軽減:膝の腫れや痛みを抑え、関節の可動域を改善します。
* 筋力(特に大腿四頭筋)の回復:膝の安定に不可欠な大腿四頭筋の筋力低下は、ACL損傷後によく見られます。術前の筋力低下が大きいと、術後の回復が遅れる可能性があります。
* 関節可動域の改善:膝の曲げ伸ばしをスムーズに行えるようにし、日常生活や歩行を容易にします。
* 疼痛管理:膝の痛みをコントロールし、リハビリへの積極的な参加を促します。
* 患者教育:手術後のリハビリテーションの進め方や、注意点などを理解してもらい、モチベーションを高めます。

具体的な内容

* アイシングと圧迫:腫れや炎症を抑えるために行います。
* 関節可動域訓練:徒手療法や、持続的他動運動装置(CPM)などを用いて、膝の曲げ伸ばしを行います。徐々に可動域を拡大していきます。
* 筋力増強訓練:
* 等尺性運動:膝を伸ばした状態で力を入れる運動(例:タオルギャザー、大腿四頭筋等尺性収縮)。
* 低負荷での自動運動:膝を曲げ伸ばしする運動(例:膝屈伸運動)。
* 自転車エルゴメーター:低負荷から開始し、徐々に負荷を上げていきます。
* 歩行訓練:杖などを使用しながら、正しい歩き方を習得します。
* バランストレーニング:患肢での立位保持や、片足立ちなどを行い、膝の安定性を高めます。

術前リハビリの成功は、手術を受ける際の膝の状態を良好に保ち、術後の合併症リスクを低減させることに繋がります。

手術後リハビリテーション

手術後のリハビリテーションは、「術後リハビリ」と呼ばれ、段階的に進められます。一般的に、数ヶ月から1年以上に及ぶ長期間のリハビリテーションが必要です。

第1段階:急性期(手術後~2週頃)

この時期の主な目的は、創部の保護、腫れの軽減、痛みのコントロール、および合併症の予防です。

目的

* 疼痛と腫れの管理
* 感染予防
* 血栓塞栓症の予防
* 関節可動域の維持・改善(特に伸展位の維持)
* 大腿四頭筋の活性化

具体的な内容

* 安静と挙上:患肢を心臓より高く保ち、腫れを抑えます。
* アイシング:頻回に行います。
* 弾性包帯やサポーター:圧迫固定を行い、腫れを抑えます。
* CPM(持続的他動運動装置):膝の曲げ伸ばしを自動的に行い、関節拘縮を予防します。
* 大腿四頭筋の等尺性収縮:膝を伸ばした状態で力を入れる運動。
* 足関節の自動運動:血流を促進し、血栓予防に繋がります。
* 免荷歩行(松葉杖使用):医師の指示に基づき、患肢に体重をかけないように歩行します。

第2段階:回復期(手術後2週~3ヶ月頃)

この時期からは、筋力回復と関節可動域の拡大を本格的に開始します。

目的

* 完全な関節可動域の回復
* 大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋などの筋力回復
* 歩行の正常化
* 固有受容感覚(関節の感覚)の改善

具体的な内容

* 関節可動域訓練:徒手療法、ストレッチ、運動療法を継続します。
* 筋力増強訓練:
* 自重トレーニング:スクワット、ランジ、カーフレイズなど。
* ゴムチューブトレーニング:抵抗を加えながらの運動。
* 自転車エルゴメーター:負荷を徐々に増やします。
* レッグプレス、レッグエクステンション、レッグカール(低負荷)
* バランス・固有受容感覚訓練:
* 片足立ち
* バランスボード
* シーソー
* 地上歩行訓練:松葉杖を離し、徐々に体重負荷を増やしていきます。

第3段階:強化期(手術後3ヶ月~6ヶ月頃)

この時期は、より高度な筋力、持久力、および協調性の向上を目指します。

目的

* 損傷前と同等レベルの筋力回復
* 持久力の向上
* 運動スキルの向上
* スポーツ特有の動作への適応

具体的な内容

* 高度な筋力トレーニング:
* フリーウェイトトレーニング
* プライオメトリックストレーニング(ジャンプ、着地など):段階的に難易度を上げていきます。
* 持久力トレーニング:ランニング(ジョギングから開始)、水泳など。
* アジリティトレーニング:方向転換、ステップワークなどの練習。
* スポーツ特有の動作練習:ボールを使った練習、切り返し動作など。

第4段階:維持・復帰期(手術後6ヶ月~1年以降)

最終段階では、スポーツへの完全復帰を目指し、再受傷予防にも重点を置きます。

目的

* スポーツへの安全な復帰
* 再受傷リスクの低減
* パフォーマンスの維持・向上

具体的な内容

* スポーツ特有の強度・スピードでの練習
* フルコートでの練習
* scrimmage(練習試合)への参加
* 継続的な筋力・持久力・アジリティトレーニング
* 定期的な評価とフィードバック

リハビリテーションにおける留意点

* 医師・理学療法士との連携:必ず専門家の指示に従い、無理のない範囲でリハビリを進めることが重要です。
* 痛みを我慢しない:痛みは体からのサインです。無理な運動は逆効果となる可能性があります。
* 自己判断は禁物:リハビリの進行度や運動内容については、必ず専門家と相談してください。
* 継続は力なり:ACLリハビリは長期間にわたります。焦らず、着実に進めることが大切です。
* メンタル面のケア:怪我からの回復には、精神的な強さも必要です。ポジティブな気持ちを保つように心がけましょう。
* 再受傷予防:リハビリが終了しても、日頃から膝のケアを怠らず、適切なトレーニングを継続することが、再受傷を防ぐ上で非常に重要です。

まとめ

ACL損傷の手術前後のリハビリテーションは、計画的かつ段階的に行われることが、機能回復とスポーツへの復帰に不可欠です。術前リハビリで良好な状態を作り、術後リハビリを各段階の目標達成に向けて着実に進めることで、最大限の機能回復が期待できます。専門家との密な連携、患者自身の積極的な取り組み、そして再受傷予防への意識が、長期的な膝の健康を維持する鍵となります。