骨折後の関節の硬さ(拘縮)を取るリハビリテーション
骨折後のリハビリテーションにおいて、関節の可動域制限、すなわち「拘縮」は、日常生活への復帰を妨げる大きな要因となります。早期からの適切なリハビリテーションは、この拘縮の予防と改善に不可欠です。ここでは、骨折後の関節拘縮に対するリハビリテーションについて、その詳細と、それに付随する留意点などを解説します。
拘縮のメカニズムと骨折との関連性
関節拘縮は、関節周囲の組織(筋肉、腱、靭帯、関節包など)の炎症、腫脹、瘢痕化(組織が硬くなること)、あるいは不動による短縮などが原因で、関節が正常に動かせなくなる状態を指します。骨折が発生すると、骨折部位の安定化のために、患部を安静にする期間が設けられます。この安静期間が長引くことで、関節周囲の組織は徐々に硬くなり、拘縮が生じやすくなります。また、骨折の部位や程度、手術の有無によっても、拘縮のリスクは変動します。例えば、関節内骨折や脱臼を伴う骨折は、より重度の拘縮を引き起こしやすい傾向があります。
リハビリテーションの基本原則
骨折後の関節拘縮に対するリハビリテーションは、以下の基本原則に基づき実施されます。
早期介入
骨折の安定性が確認され次第、可能な限り早期にリハビリテーションを開始することが重要です。早期に動き始めることで、組織の硬化を最小限に抑え、良好な可動域の回復が期待できます。ただし、骨折部位の安定性を最優先に、医師や理学療法士の指示のもと、安全な範囲で進める必要があります。
段階的な負荷
リハビリテーションは、患者さんの状態に合わせて段階的に負荷を上げていくことが基本です。初期段階では、疼痛の誘発や骨折部位への過度な負担を避けるため、穏やかな運動から開始します。徐々に運動の強度、回数、持続時間を増やし、最終的には日常生活に必要なレベルの関節可動域と筋力を回復させることを目指します。
疼痛管理
リハビリテーション中の疼痛は、患者さんの意欲を低下させ、運動の継続を困難にします。疼痛を適切に管理しながらリハビリテーションを進めることが重要です。これには、運動前後のアイシング、温熱療法、薬物療法、あるいは運動方法の工夫などが含まれます。
個別性
骨折の種類、部位、年齢、基礎疾患、生活環境など、患者さんの状況は一人ひとり異なります。そのため、リハビリテーションプログラムは、個々の患者さんに合わせたオーダーメイドで作成される必要があります。理学療法士は、患者さんの状態を詳細に評価し、最も効果的なアプローチを選択します。
具体的なリハビリテーションプログラム
関節拘縮の改善を目指すリハビリテーションプログラムは、主に以下の要素で構成されます。
関節可動域訓練(ROM訓練)
拘縮した関節の可動域を徐々に広げていくための運動です。
自動運動
患者さん自身が、自分の力で関節を動かす運動です。初期段階で、無理のない範囲で繰り返すことで、関節の滑りを促進し、組織の柔軟性を維持・改善します。
他動運動
理学療法士や装具(CPM装置など)の助けを借りて、関節を動かす運動です。患者さんの力だけでは動かせない範囲まで、ゆっくりと、そして持続的に関節を動かします。
自動介助運動
患者さんが自分の力で動かせる範囲は自分で行い、それ以上の動きは介助を受けて行う運動です。自動運動と他動運動の中間的な位置づけであり、徐々に介助量を減らしていくことで、最終的には自動運動のみで動けるようにすることを目指します。
ストレッチング
関節周囲の筋肉や靭帯などの軟部組織を伸展させ、柔軟性を向上させるための運動です。
静的ストレッチング
ゆっくりと伸ばした状態で、一定時間保持するストレッチです。疼痛を誘発しない範囲で、心地よい伸びを感じる程度に行います。
動的ストレッチング
反動をつけずに、ゆっくりと関節を動かしながら筋肉を伸ばしていくストレッチです。
筋力増強訓練
関節の動きを支え、安定させるためには、周囲の筋力が不可欠です。拘縮によって弱った筋力を回復させることで、関節の機能改善を促進します。初期は等尺性運動(関節を動かさずに筋を収縮させる運動)から開始し、徐々に抵抗運動(ゴムバンドや重りを使った運動)へと移行します。
物理療法
温熱療法、寒冷療法、電気療法など、物理的な手段を用いて疼痛の軽減、血行促進、組織の柔軟性向上を図ります。
温熱療法
ホットパックや温水療法などにより、組織を温め、血行を促進し、筋肉の緊張を和らげます。
寒冷療法
アイシングなどにより、炎症や腫脹を抑え、痛みを軽減します。
電気療法
低周波治療器などを使用し、痛みの緩和や筋機能の改善を目指します。
装具療法
スプリント(副木)や装具を用いて、関節を適切な位置に保持したり、継続的に伸張力を加えたりすることで、拘縮の予防や改善をサポートします。特に、夜間などに装着する「ナイトスプリント」は、長時間の伸張を可能にし、効果が期待できます。
リハビリテーションにおける注意点と自己管理
リハビリテーションを効果的に進めるためには、専門家との連携に加え、患者さん自身の積極的な取り組みと自己管理が不可欠です。
疼痛の自己評価と報告
リハビリテーション中に感じる疼痛は、その程度や性質を正確に把握し、理学療法士に伝えることが重要です。痛みが強い場合は、運動方法の見直しや休憩が必要になることがあります。
自宅での継続的な運動
理学療法士から指導された自宅での自主トレーニングを、毎日欠かさず継続することが、拘縮改善の鍵となります。指示された回数やセット数を守り、無理のない範囲で実施しましょう。
日常生活での工夫
日常生活の中で、意識的に患部を動かす機会を増やすことも有効です。例えば、食事の際に箸を使う、衣服を着脱する際に患部を動かすなど、工夫次第で様々な機会があります。
十分な休養と栄養
組織の修復と再生には、十分な休養とバランスの取れた栄養が不可欠です。睡眠時間を確保し、タンパク質やビタミン、ミネラルを十分に摂取しましょう。
精神的なサポート
関節拘縮の改善には時間がかかる場合もあり、患者さんは精神的な負担を感じることがあります。家族や医療スタッフからの励ましやサポートは、リハビリテーションの継続にとって非常に重要です。
まとめ
骨折後の関節拘縮は、早期からの適切なリハビリテーションによって、その予防と改善が十分に可能です。関節可動域訓練、ストレッチング、筋力増強訓練、物理療法、装具療法などを組み合わせた、患者さん一人ひとりに合わせたプログラムが重要となります。そして、専門家との密な連携のもと、自宅での継続的な運動や日常生活での工夫、十分な休養と栄養、精神的なサポートを受けることが、早期の回復と社会復帰への道を拓く鍵となります。
