肩の腱板損傷のリハビリと手術の判断

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肩の腱板損傷のリハビリと手術の判断

肩の腱板損傷とは

肩の腱板(ローテーターカフ)は、肩関節を安定させ、腕を上げたり回したりする動きを司る複数の筋肉と腱の集まりです。これらの腱が損傷することを腱板損傷と呼びます。加齢による変性、スポーツや重労働による使いすぎ、転倒などの外傷が原因となります。損傷の程度は、軽度の炎症から腱の断裂まで様々です。

腱板損傷の症状

主な症状は、肩の痛みです。特に腕を上げるとき、横に上げるとき、後ろに回すときなどに痛みを感じることが多く、夜間に痛みが強くなり眠れないこともあります。痛みのために腕の可動域が制限され、日常生活(着替え、洗髪、重い物を持ち上げるなど)に支障をきたすこともあります。

腱板損傷の診断

診断は、問診、視診、触診に加えて、画像検査によって行われます。

  • 問診:どのような時に、どのような痛みがあるのか、いつから始まったのかなどを詳しく伺います。
  • 視診・触診:肩の腫れや変形、圧痛の有無、筋力の低下などを確認します。
  • 画像検査
    • レントゲン検査:骨の異常(骨折、変形性関節症など)を確認します。腱板自体は写りませんが、腱板損傷の原因となる骨棘(こつきょく)などを評価できます。
    • MRI検査:腱板の断裂の有無、程度、周囲の筋肉の状態などを詳細に評価するのに最も有用な検査です。
    • 超音波(エコー)検査:リアルタイムで腱板の状態を評価でき、MRI検査が難しい場合や、診断の補助として用いられることがあります。

腱板損傷のリハビリテーション

腱板損傷の治療において、リハビリテーションは非常に重要な位置を占めます。保存療法(手術をしない治療)の基本となりますが、手術後の回復期においても不可欠です。

リハビリテーションの目的

リハビリテーションの主な目的は以下の通りです。

  • 痛みの軽減:炎症を抑え、痛みを和らげることで、関節の動きをスムーズにします。
  • 関節可動域の改善:硬くなった関節包や筋肉をストレッチし、腕を様々な方向に動かせるようにします。
  • 筋力強化:損傷した腱板を支え、肩関節の安定性を高めるための筋力を回復・向上させます。
  • 機能回復:日常生活やスポーツ動作に必要な肩の機能を段階的に取り戻します。
  • 再発予防:正しい姿勢や動作を身につけ、将来的な再発を防ぎます。

リハビリテーションの段階

リハビリテーションは、損傷の程度や時期によって段階的に進められます。

第1段階:急性期・炎症期(痛みの軽減と保護)

この時期は、炎症と痛みを抑えることが最優先です。

  • 安静:痛みを悪化させる動作を避けます。
  • アイシング:炎症や痛みを軽減するために、患部を冷やします。
  • 物理療法:超音波療法、電気療法などで血行を促進し、痛みを和らげます。
  • 痛みを伴わない範囲での軽い運動:振り子運動など、重力に任せた腕の運動で関節の拘縮(こうしゅく)を防ぎます。
  • 装具療法:場合によっては、腕を吊るスリングなどで肩を保護します。

第2段階:回復期(関節可動域の改善と筋力トレーニング開始)

痛みが軽減してきたら、徐々に動きを取り戻していきます。

  • ストレッチング:後方関節包の硬縮(こうしゅく)や、周りの筋肉の柔軟性を改善するためのストレッチを行います。
  • 自動運動・他動運動:理学療法士の補助を受けながら、またはご自身で腕を動かす練習をします。
  • 軽度の筋力トレーニング:ゴムバンドなどを使った、軽い抵抗でのトレーニングを開始します。主に腱板周囲の筋肉(ローテーターカフ)や肩甲骨周囲の筋肉をターゲットとします。

第3段階:強化期(筋力強化と機能訓練)

関節の動きが回復し、筋力もついてきたら、より実践的なトレーニングを行います。

  • 抵抗運動の強化:徐々に負荷を上げていき、腱板の筋力と持久力を高めます。
  • 肩甲骨の安定化トレーニング:肩甲骨の正しい動きと安定性が、腱板の機能に不可欠であるため、集中的に行います。
  • 統合運動:腕を上げる、回すといった複合的な動作の練習を行います。
  • 日常生活動作(ADL)訓練:着替え、洗髪、物を持ち上げるなど、実際の生活で必要な動作を安全に行えるように練習します。
  • スポーツ復帰に向けたトレーニング:スポーツの種類に応じた、より高度な運動能力の回復を目指します。

第4段階:維持期・スポーツ復帰期

症状が改善し、日常生活に支障がなくなったら、再発予防とさらなるパフォーマンス向上を目指します。

  • 運動の継続:自宅での自主トレーニングを継続し、筋力と柔軟性を維持します。
  • スポーツ特有の動作練習:より実践的な動きを取り入れ、スムーズな動作を習得します。
  • 定期的なチェック:必要に応じて、医療機関やトレーナーによるチェックを受けます。

リハビリテーションにおける注意点

  • 無理をしない:痛みを我慢して行うと、かえって症状を悪化させる可能性があります。
  • 段階を守る:自己判断で進めず、理学療法士の指示に従い、段階的に進めることが重要です。
  • 継続が大切:リハビリテーションは、効果が出るまでに時間がかかることがあります。根気強く続けることが回復への鍵となります。
  • 正しいフォーム:運動の効果を最大限に引き出し、怪我を防ぐために、正しいフォームで行うことが重要です。

手術の判断

腱板損傷のすべてが手術を必要とするわけではありません。保存療法(リハビリテーションや投薬、注射など)で改善が見られない場合や、特定の条件を満たす場合に手術が検討されます。

手術を検討する基準

以下のような場合に手術が検討されます。

  • 重度の腱板断裂:断裂の範囲が大きく、自然治癒が期待できない場合。MRI検査などで確認されます。
  • 保存療法で改善しない強い痛み:数ヶ月にわたるリハビリテーションや投薬でも痛みが持続し、日常生活に大きな支障が出ている場合。
  • 筋力低下が著しい場合:腕を上げる、外転させるなどの動作で明らかな筋力低下が見られ、日常生活動作が困難な場合。
  • 若年者で活動性の高い方:スポーツや仕事で肩を酷使する方で、早期に機能回復を目指したい場合。
  • 外傷による急性の断裂:転倒などで急に激しい痛みに襲われ、腱板が完全に断裂した場合。

手術の種類

腱板断裂の修復手術は、主に以下の方法で行われます。

  • 関節鏡視下手術:数ミリ程度の小さな切開から、関節鏡(カメラ)と細い手術器具を挿入して行う低侵襲手術です。
    • 断裂した腱板を元の骨に縫合:断裂した腱板の断端を、特殊な糸とアンカー(インプラント)を用いて骨に固定します。
    • 骨棘(こつきょく)の切除:腱板損傷の原因となる肩峰下の骨棘を削り、腱板がスムーズに動けるようにします。
    • 滑液包炎の処置:炎症を起こしている滑液包を切除することもあります。
  • 小開口手術:関節鏡視下手術が難しい場合や、断裂の程度によっては、やや大きめの切開で行うこともあります。
  • 人工関節置換術:腱板が広範囲に断裂し、関節の変形も著しい場合、または修復が困難な場合には、人工関節に置き換える手術が選択されることもあります(インプラントの種類は腱板の状態によって変わります)。

手術後のリハビリテーション

手術後のリハビリテーションは、手術の成功と機能回復のために極めて重要です。手術方法や断裂の程度によって、リハビリの開始時期や進め方は異なりますが、一般的には以下のようになります。

  • 初期(手術直後~数週間)
    • 安静と保護:手術した肩を保護するため、スリングなどで腕を吊り、動かさないようにします。
    • 痛みの管理:鎮痛剤の使用や、場合によっては神経ブロックなどで痛みをコントロールします。
    • 受動的な運動:理学療法士が肩を動かす、または機械(CPM装置)を用いて、関節の拘縮を防ぎます。
  • 中期(数週間~数ヶ月)
    • 徐々に動かす範囲を広げる:痛みのない範囲で、ご自身で腕を動かす練習(自動介助運動)を開始します。
    • 軽い筋力トレーニング:ゴムバンドなどを用いた、ごく軽い負荷での筋力トレーニングを開始します。
    • 姿勢や肩甲骨の意識:正しい姿勢を保ち、肩甲骨の動きを意識する練習を行います。
  • 後期(数ヶ月~)
    • 積極的な筋力強化:徐々に負荷を上げ、腱板や肩甲骨周囲の筋力を回復させます。
    • 機能訓練:日常生活動作や、スポーツ復帰に向けた機能的な訓練を行います。
    • パフォーマンス向上:より高度な運動能力の回復を目指します。

まとめ

肩の腱板損傷は、痛みを伴い、日常生活や活動に大きな影響を与える可能性があります。しかし、適切なリハビリテーションを行うことで、多くの場合は手術をせずに改善が期待できます。リハビリテーションは、痛みの軽減、関節可動域の改善、筋力強化、機能回復を目指し、段階的に進められます。
一方、重度の断裂や保存療法で改善しない強い痛みがある場合には、手術が有効な選択肢となります。手術の方法は、腱板の状態や患者さんの状況に応じて選択されます。手術後のリハビリテーションも、機能回復のために非常に重要です。
腱板損傷の治療においては、医師や理学療法士とよく相談し、ご自身の状態に合わせた最適な治療計画を立て、根気強く取り組むことが何よりも大切です。