リハビリで歩き方をチェックするポイント

ピラティス・リハビリ情報

リハビリにおける歩行評価のポイント

歩行分析の重要性

リハビリテーションにおいて、歩行能力の評価は極めて重要です。患者さんの日常生活動作(ADL)の自立度やQOL(Quality of Life)に直結するだけでなく、治療効果の判定や今後のリハビリテーション計画立案の根拠となります。歩行の異常は、単に見た目の問題だけでなく、転倒リスクの増加、疲労感の増大、さらには二次的な身体機能の低下を招く可能性があります。

歩行分析は、静的な姿勢評価や筋力測定だけでは捉えきれない、動的な身体の協調性やバランス能力、エネルギー効率などを評価するための必須のプロセスです。

歩行チェックの基本的な視点

歩行チェックでは、まず全体像を把握することが重要です。歩行を「歩幅」「歩調」「立脚期」「遊脚期」「支持基底」「対称性」といった要素に分解し、それぞれの状態を観察します。これらの要素は互いに関連し合っており、一つの異常が他の要素に影響を与えることも少なくありません。

歩幅(Stride Length)

歩幅は、片方の踵が地面についてから、次に同じ方の踵が地面につくまでの距離ではなく、片方の踵が地面についた点から、反対側の踵が地面についた点までの距離を指します。歩幅が狭い場合、推進力が不足している、あるいはバランスを崩しやすい状態である可能性が考えられます。逆に、過度に大きい歩幅も、不自然さやエネルギー消費の増大を招くことがあります。

歩調(Cadence)

歩調は、1分間に歩く歩数、つまり歩行の速さを表す指標です。歩調が速すぎる場合は、バランスを崩しやすく、転倒リスクが高まることがあります。逆に、歩調が遅すぎる場合は、筋力低下や関節可動域制限、あるいは恐怖心から慎重になりすぎている可能性などが考えられます。

立脚期(Stance Phase)

立脚期は、足が地面についている期間を指します。この期間は、体重を支え、体を前方に推進させるための重要な局面です。立脚期において、足底全体が均等に接地しているか、踵接地(ヒールロッカー)や足部クリアランス(遊脚期において地面から浮いている状態)が適切に行われているかなどを観察します。立脚期の異常は、下肢の筋力低下、関節の痛み、あるいは神経系の問題を示唆することがあります。

遊脚期(Swing Phase)

遊脚期は、足が地面から離れて前方に振り出される期間です。この期間では、足が地面に接触しないように、十分な足部クリアランスを確保することが重要です。遊脚期における足の持ち上がりが不十分な場合、地面に擦ったり、つま先を引っ掛けたりするリスクが高まります。これは、股関節や膝関節の屈曲制限、あるいは下腿三頭筋の筋力低下などが原因となっていることがあります。

支持基底(Base of Support)

支持基底は、両足の接地面積の広がりを指します。支持基底が広すぎる場合、歩行の効率が悪くなり、不自然な歩き方に見えます。これは、バランスを保とうとする無意識の代償動作であることが多いです。逆に、支持基底が狭すぎると、バランスを崩しやすく、転倒リスクが増加します。

対称性(Symmetry)

対称性は、左右の足の動きがどれだけ似ているかを見る指標です。左右の歩幅、立脚時間、遊脚時間などに大きな差がある場合、身体の片側に問題がある可能性が示唆されます。例えば、片方の足に体重を乗せるのが痛い、あるいは筋力が弱いといった場合、無意識のうちにその足への負荷を減らそうとするため、左右非対称な歩行パターンが生じます。

観察のポイントと評価項目

歩行チェックでは、上記の基本的な要素に加え、さらに詳細な観察を行います。以下に、主な観察ポイントと評価項目を挙げます。

立位・姿勢

歩行開始前の立位姿勢は、歩行パターンに大きく影響します。背筋は伸びているか、体幹は安定しているか、骨盤の傾きはないかなどを確認します。猫背や前傾姿勢は、重心が移動しにくくなり、歩幅の低下や推進力の不足を招きます。

足部の接地

踵から接地(ヒールロッカー)がスムーズに行われているか、足底全体が均等に接地しているか、内側や外側に倒れ込んでいないか(回内・回外)などを確認します。足部の異常な接地は、膝や股関節、さらには腰痛の原因にもなり得ます。

膝関節の動き

立脚期には膝がわずかに屈曲して衝撃を吸収し、遊脚期には地面をクリアするために適切に屈曲する必要があります。膝折れ(ニーイン)や過度の伸展(バックニー)は、筋力低下や関節の不安定性を示唆します。また、遊脚期での膝の屈曲が不十分だと、足部クリアランスが確保できず、つまずきの原因となります。

股関節の動き

股関節は、歩行における推進力とバランス制御に重要な役割を果たします。股関節の屈曲・伸展、内旋・外旋、外転・内転の動きがスムーズに行われているかを確認します。股関節の可動域制限や筋力低下は、歩幅の減少や体幹の動揺を引き起こします。

体幹の動き

歩行中は、体幹が適度に回旋し、バランスを保ちながら推進力を生み出します。体幹の過度な側屈や回旋は、下肢の機能不全を補おうとする代償動作であることが多いです。体幹の安定性は、歩行の効率と安全性を大きく左右します。

腕の振り

歩行時の腕の振りは、体のバランスをとるための重要な役割を担っています。左右の腕が規則的に、かつ適切な振幅で振れているかを確認します。腕の振りが小さい、あるいは左右非対称な場合は、体幹の不安定性や下肢の機能不全を示唆することがあります。

足部クリアランス

遊脚期において、足が地面からどれだけ離れているかを確認します。つま先が地面に擦らないように、十分なクリアランスが確保されていることが重要です。クリアランスが不足している場合、つま先が引っかかりやすく、転倒のリスクが高まります。

着地音

歩行時の着地音も、歩行パターンを把握する手がかりになります。ドスンという強い衝撃音は、膝や足関節の衝撃吸収能力の低下を示唆します。また、左右で着地音が大きく異なる場合も、非対称な歩行パターンが疑われます。

歩行速度

歩行速度は、年齢、性別、健康状態によって個人差がありますが、一般的に遅すぎると活動量の低下や転倒リスクの増加につながります。リハビリの目標設定においても、歩行速度の改善は重要な項目の一つとなります。

疲労度

長時間歩行した際の歩行パターンの変化や、歩行後の疲労感も評価の対象となります。疲労による歩行パターンの乱れは、エネルギー消費効率の悪さや筋持久力の低下を示唆します。

評価方法

歩行チェックは、主に以下の方法で行われます。

視診

最も基本的な方法であり、熟練したセラピストが直接患者さんの歩行を観察し、上記の項目を評価します。ビデオ撮影を行い、スロー再生などで詳細に分析することも有効です。

歩行分析装置

近年では、モーションキャプチャシステムやフォースプレート、加速度センサーなどを搭載した歩行分析装置が普及しており、より客観的かつ定量的な歩行データの取得が可能になっています。これにより、微細な歩行パターンの変化も捉えることができます。

まとめ

リハビリにおける歩行チェックは、単に「歩けるか、歩けないか」を判断するだけでなく、その「質」を詳細に評価するプロセスです。患者さんの身体機能、バランス能力、エネルギー効率、そして日常生活への適応能力を多角的に捉え、個別性の高いリハビリテーション計画を立案するために不可欠な評価と言えます。上記に挙げた様々な視点から、患者さん一人ひとりの歩行パターンを注意深く観察し、その原因を特定することで、より効果的な介入が可能となります。継続的な評価とフィードバックを通じて、患者さんの歩行能力の改善と、より安全で自立した生活の実現を目指します。