運動器リハビリテーションの対象疾患

ピラティス・リハビリ情報

運動器リハビリテーションの対象疾患

1. 運動器疾患の概要

運動器リハビリテーションは、骨、関節、筋肉、神経などの運動器に生じた機能障害に対して、身体機能の回復、疼痛の軽減、日常生活動作(ADL)の改善、社会参加の促進などを目的として行われます。対象となる疾患は多岐にわたり、急性期から慢性期、術後まで、様々な病期や状態に対応します。

2. 主な対象疾患

2.1. 外傷性疾患

骨折:転子部骨折、橈骨遠位端骨折、脊椎圧迫骨折など、身体の様々な部位の骨折が対象となります。骨折部位の安定化を図りつつ、早期から関節可動域訓練、筋力増強訓練、荷重訓練などを開始し、骨癒合の促進と機能回復を目指します。

脱臼・亜脱臼:肩関節、股関節、膝関節などの脱臼・亜脱臼は、関節の不安定性を伴うことが多く、再発予防も重要な課題です。関節の整復後、周囲筋の強化、固有受容感覚の改善訓練を行います。

靭帯損傷:膝関節の靭帯損傷(前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯など)は、スポーツ外傷で多く見られます。保存療法または手術療法後のリハビリテーションでは、疼痛管理、腫脹軽減、筋力回復、バランス能力の改善、スポーツ復帰に向けた段階的なトレーニングを行います。

腱板損傷・断裂:肩関節の腱板損傷・断裂は、挙上動作の制限や疼痛を引き起こします。保存療法、あるいは手術療法後のリハビリテーションでは、肩関節の可動域改善、腱板筋の機能回復、日常生活動作の再獲得を目指します。

筋肉・腱の損傷・断裂:アキレス腱断裂、大腿四頭筋腱断裂、ハムストリングス肉離れなども対象となります。損傷部位の安静、腫脹軽減を図り、段階的なストレッチ、筋力増強、動作練習を行います。

2.2. 変形性疾患

変形性関節症:膝関節、股関節、腰椎、頚椎などに好発し、関節軟骨の摩耗や変性により、疼痛、可動域制限、筋力低下を引き起こします。保存療法では、疼痛管理、関節可動域訓練、筋力増強訓練、歩行訓練、日常生活動作指導などを行います。必要に応じて、装具療法や手術療法(人工関節置換術など)後のリハビリテーションも重要です。

脊柱管狭窄症:腰部脊柱管狭窄症は、歩行時の下肢痛(間欠性跛行)や痺れが特徴です。運動療法では、姿勢の改善、体幹筋の強化、柔軟性の向上、歩行訓練などを中心に行い、症状の緩和と歩行能力の改善を目指します。

腰痛症・頚部痛:原因が特定できない機能的な腰痛や頚部痛に対しても、運動療法は有効です。姿勢指導、ストレッチ、筋力トレーニング、動作指導などを通じて、痛みの軽減と再発予防を図ります。

2.3. 炎症性疾患

関節リウマチ:全身の関節に炎症を引き起こす自己免疫疾患です。活動期には炎症を抑え、非活動期には関節の変形予防、可動域維持、筋力低下の予防を目的とした運動療法を行います。疼痛管理も重要です。

痛風・偽痛風:結晶誘発性の急性の関節炎です。急性期には安静と炎症のコントロールが優先されますが、回復期には関節の可動域制限や筋力低下の改善を目指したリハビリテーションを行います。

線維筋痛症:全身に広がる慢性的な痛みやこわばりを特徴とします。運動療法は、痛みの軽減、睡眠の質の向上、抑うつ気分の改善に効果が期待できます。低強度から開始し、徐々に強度を上げていくことが重要です。

2.4. 神経疾患による運動器障害

脳卒中後遺症:片麻痺、痙縮、感覚障害、平衡障害など、運動機能に様々な影響が出ます。リハビリテーションでは、麻痺側の機能回復、代償動作の獲得、日常生活動作の自立度向上を目指し、作業療法士とも連携して行います。

パーキンソン病:動作緩慢、振戦、筋固縮などの症状があり、歩行障害や姿勢異常が見られます。運動療法は、歩行能力の改善、バランス能力の向上、姿勢の修正、日常生活動作の維持・改善に貢献します。

脊髄損傷:損傷部位以下の運動・感覚機能の障害が生じます。残存機能の最大限の活用、合併症(褥瘡、尿路感染、痙縮など)の予防、ADLの自立度向上を目指したリハビリテーションを行います。

末梢神経障害:糖尿病性神経障害、ギラン・バレー症候群などによる筋力低下や感覚障害に対し、筋力増強、感覚再教育、バランストレーニングなどを実施します。

2.5. 代謝性疾患・骨代謝疾患

骨粗鬆症:骨密度が低下し、骨折しやすくなる疾患です。運動療法は、筋力増強による転倒予防、骨密度の維持・改善効果が期待されます。ただし、骨折リスクを考慮し、安全な運動プログラムを選択することが重要です。

腎臓病による骨病変:慢性腎臓病に伴う骨代謝異常に対し、運動療法は筋力維持・向上、疼痛緩和に寄与する場合があります。

2.6. 悪性腫瘍・術後

がん術後:がん手術(特に骨や関節周囲の切除を伴う場合)後の機能回復、疼痛管理、リンパ浮腫の軽減などを目的とします。術後の合併症予防も重要です。

人工関節置換術後:人工股関節置換術、人工膝関節置換術後の早期離床、関節可動域の改善、筋力強化、歩行訓練を行います。

切断術後:義肢装具装着訓練、断端の管理、残存機能の活用、歩行能力の獲得を目指します。

3. リハビリテーションの進め方

運動器リハビリテーションは、個別性を重視したプログラムが組まれます。まず、病状の評価、身体機能評価(関節可動域、筋力、バランス能力、歩行能力など)、疼痛評価、ADL評価を行い、患者さんの目標を共有します。

急性期:疼痛・腫脹の管理、合併症予防、安静臥床による筋力低下・関節拘縮の予防を目的とした、早期からの関節可動域訓練や等尺性運動などが中心となります。早期離床・早期活動を促します。

回復期:疼痛・腫脹が落ち着き、骨癒合や組織修復が進んできたら、より積極的な運動療法を開始します。関節可動域訓練、筋力増強訓練、持久力向上訓練、バランス訓練、歩行訓練、日常生活動作練習などを段階的に行います。

維持期・慢性期:疾患が慢性化している場合や、機能回復が一定程度達成された後も、活動性の維持、再発予防、生活の質の向上を目的とした運動療法を継続します。自宅でできる自主トレーニングの指導も重要です。

4. その他

運動器リハビリテーションは、医師の指示のもと、理学療法士、作業療法士、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどの多職種チームで連携して行われることが一般的です。患者さん自身が主体的にリハビリテーションに取り組むことが、良好な結果を得るために不可欠です。

近年では、運動器疾患の予防や健康増進の観点からも、運動器リハビリテーションの重要性が高まっています。加齢に伴う筋力低下やバランス能力の低下を予防し、健康寿命の延伸に貢献することが期待されています。

まとめ

運動器リハビリテーションは、多様な運動器疾患に対し、個々の患者さんの状態や目標に合わせて、専門的な評価と治療計画に基づき実施されます。急性期から慢性期まで、幅広い病期に対応し、身体機能の回復、疼痛の軽減、そして最終的には患者さんのQOL(Quality of Life)向上を目指す包括的な医療サービスです。