電気刺激(IVES、EMS)を使ったリハビリ

ピラティス・リハビリ情報

電気刺激療法(IVES、EMS)を用いたリハビリテーション

電気刺激療法は、現代のリハビリテーション医療において、患者の機能回復を促進するための重要な手段の一つです。特に、運動ニューロン刺激(IVES)と筋電気刺激(EMS)は、その効果と応用範囲の広さから、様々な疾患や傷害に対する治療に用いられています。本稿では、これらの電気刺激療法について、その原理、適応、具体的な手法、および効果、さらには留意点までを網羅的に解説します。

運動ニューロン刺激(IVES)とは

運動ニューロン刺激( Ives: Intervertebral Electrical Stimulation)は、神経系に直接働きかけることで筋収縮を誘発する電気刺激療法です。主に、神経経路の障害によって運動機能が低下した患者に対して適用されます。

Ivesの原理

IVESは、皮膚表面から微弱な電流を流すことで、運動神経を直接刺激します。この刺激は、脳からの指令が伝わりにくくなった神経経路を迂回したり、神経伝達物質の放出を促進したりする効果が期待できます。具体的には、運動ニューロンの興奮閾値を下げることで、本来であれば起こりにくい筋収縮を意図的に引き起こします。

Ivesの適応

IVESの主な適応疾患としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 脳卒中(脳梗塞、脳出血)後の麻痺
  • 脊髄損傷
  • 末梢神経障害(ギラン・バレー症候群など)
  • 神経筋疾患(筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症など)
  • パーキンソン病などの神経変性疾患に伴う運動機能障害

これらの疾患において、 Ivesは筋力低下の改善、関節可動域の拡大、随意的な運動パターンの再学習を支援する目的で用いられます。

Ivesの具体的な手法

IVESの実施にあたっては、まず患者の状態を正確に評価し、刺激する神経や筋群を特定します。その後、適切な電極を貼付し、電流の波形、周波数、強度、パルス幅などを設定します。治療は、通常、専門の医療従事者(理学療法士、作業療法士など)の指導のもとで行われ、治療時間や頻度は個々の患者の病状や回復状況に応じて調整されます。

  • 電極の配置:目標とする筋群や神経の走行に沿って、最適な位置に電極を貼付します。
  • 電流の設定:患者の感覚閾値や筋収縮の強さを確認しながら、安全かつ効果的な電流強度を設定します。
  • 治療プロトコル:目的に応じて、断続的な刺激や連続的な刺激、あるいは特定の運動パターンに同期させた刺激などが用いられます。

筋電気刺激(EMS)とは

筋電気刺激(EMS: Electrical Muscle Stimulation)は、筋肉に直接電気刺激を与えて筋収縮を誘発する電気刺激療法です。 Ivesと比較すると、神経系への直接的な介入よりも、筋肉そのものへの働きかけに主眼が置かれます。

EMSの原理

EMSは、皮膚表面から筋肉に電気刺激を与えることで、神経からの指令がなくても筋収縮を強制的に引き起こします。この繰り返し刺激は、筋肉の活動を促進し、以下のような効果をもたらします。

  • 筋力増強:筋繊維を収縮させることで、筋力向上に貢献します。
  • 筋萎縮の抑制:活動が低下した筋肉の萎縮を防ぎます。
  • 血行促進:筋収縮によるポンプ作用で血流を改善します。
  • 感覚入力の改善:筋肉からの感覚情報(固有受容感覚)の入力を促します。

EMSの適応

EMSの適応範囲は広く、以下のような状況で活用されています。

  • 運動器疾患:骨折後のギプス固定、関節手術後のリハビリテーション、変形性関節症などによる筋力低下の改善。
  • スポーツ分野:トレーニング効果の向上、傷害予防、コンディショニング。
  • 美容分野:痩身、筋力トレーニング。
  • 寝たきり予防:高齢者の筋力低下予防。

EMSの具体的な手法

EMSも Ivesと同様に、患者の状態評価に基づいて実施されます。電極の配置、電流の設定、治療プロトコルは、 Ivesと共通する部分も多いですが、より筋肉の収縮そのものに焦点を当てた設定が行われます。

  • 運動誘発:患者の随意的な運動と同期させたり、特定の運動プログラムに合わせて自動的に刺激を与えたりすることがあります。
  • 強度と持続時間:筋疲労度や目的に応じて、刺激の強度や収縮・弛緩の時間を調整します。
  • 多様な波形:低周波、中周波、高周波など、様々な周波数の電流が用いられ、それぞれ異なる効果が期待されます。

電気刺激療法(IVES、EMS)の共通する効果と利点

IVESおよびEMSは、それぞれ異なるアプローチを持ちながらも、リハビリテーションにおいて共通して以下のような効果と利点をもたらします。

  • 機能回復の促進:麻痺した筋や弱化した筋の活動を促し、本来の運動機能の回復を支援します。
  • 早期離床・早期社会復帰:リハビリテーションの期間を短縮し、早期の離床や社会生活への復帰を可能にします。
  • 合併症の予防:筋萎縮や関節拘縮などの合併症を予防し、予後の改善に貢献します。
  • 疼痛管理:電気刺激による神経伝達物質の放出促進や、血行改善により、痛みの緩和効果も期待できます。
  • 患者のモチベーション向上:電気刺激によって筋が収縮する様子を視覚的・体感的に確認できるため、患者の治療への意欲を高めることがあります。
  • 非侵襲性:基本的には皮膚表面からの刺激であり、手術を伴わないため、侵襲性が低い治療法です。

電気刺激療法(IVES、EMS)の注意点と禁忌事項

電気刺激療法は有効な治療法ですが、全ての患者に適用できるわけではありません。以下のような注意点や禁忌事項を理解しておくことが重要です。

  • ペースメーカー使用者:心臓ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)を使用している患者には、電気刺激が機器の誤作動を引き起こす可能性があるため、禁忌です。
  • 悪性腫瘍:腫瘍部位への電気刺激は、腫瘍の増殖を促進する可能性があるため、避けるべきです。
  • 血栓性静脈炎:血栓のある部位への刺激は、血栓の移動を招く恐れがあるため、禁忌です。
  • 皮膚の損傷や炎症:傷や湿疹、皮膚炎などがある部位には、刺激による悪化や感染のリスクがあるため、注意が必要です。
  • 感覚障害のある患者:電気刺激の感覚を正確に伝えられない場合、過度な刺激による組織損傷のリスクがあります。
  • 妊婦:腹部や腰部への電気刺激は、胎児への影響が懸念されるため、慎重な判断が必要です。
  • てんかん患者:一部の刺激パターンは、てんかん発作を誘発する可能性があります。

また、治療中は患者の体調を常に観察し、痛みや不快感がないかを確認することが不可欠です。過度な刺激は、皮膚のやけどや筋肉の損傷を引き起こす可能性があります。

まとめ

IVESとEMSは、それぞれ神経系と筋肉にアプローチする電気刺激療法であり、リハビリテーション医療において多岐にわたる疾患や傷害の治療に貢献しています。これらの療法は、筋力増強、機能回復、合併症予防、疼痛管理など、様々な効果をもたらし、患者のQOL向上に寄与します。しかし、その適用にあたっては、患者の状態を正確に評価し、禁忌事項や注意点を十分に理解した上で、専門家の指導のもと、適切に実施することが極めて重要です。今後の研究により、さらに効果的な治療プロトコルの開発や、新たな適応疾患の発見が期待されます。