半側空間無視へのアプローチ:生活での工夫

ピラティス・リハビリ情報

半側空間無視へのアプローチ:生活での工夫

はじめに

半側空間無視(HGN)は、脳卒中などの後遺症として現れる神経心理学的障害であり、身体の片側、または空間の片側からの刺激を認識できない状態を指します。この障害は、患者さんの日常生活に大きな影響を与え、転倒、事故、食事の偏り、着衣の不備など、様々な問題を引き起こす可能性があります。しかし、適切なアプローチと工夫によって、患者さんのQOL(Quality of Life)を向上させ、自立した生活を送るための支援が可能です。

生活場面での具体的な工夫

食事

食事は、患者さんの栄養状態や満足度に直結するため、丁寧な支援が求められます。

  • 食器の配置:無視している側とは反対側に食器を配置することで、視覚的な入力を促します。例えば、右半側空間無視の場合は、左側に食器を置きます。
  • 声かけ:「右側を見てください」「お皿の左側におかずがありますよ」など、具体的に無視している側を意識させる声かけを行います。
  • 食材の工夫:彩り豊かで、形がはっきりとした食材を選ぶと、視覚的に認識しやすくなります。
  • スプーンやフォークの持ち方:持ちにくい場合は、グリップを太くするなどの工夫も有効です。

衣服の着脱

衣服の着脱は、身体の片側を無視してしまうことで、うまく進まないことがあります。

  • 衣服の準備:前開きのシャツや、ゆったりとしたズボンなど、着脱しやすい衣服を選びます。
  • 手順の明確化:「まず右腕を通しましょう」「次に左腕を通しましょう」など、段階を踏んで指示を出します。
  • 鏡の活用:鏡を見ることで、自分の身体の全体像を把握しやすくなり、無視している側を意識するきっかけになります。
  • 補助具の使用:ボタンフックやジッパープルなどの補助具も、自立を支援します。

移動・歩行

移動や歩行においては、転倒や衝突のリスクが高まります。

  • 空間の整理:床に落ちている物や、家具の配置などを整理し、障害物を減らします。
  • 誘導:無視している側から声をかけたり、手を引いたりすることで、注意を促します。
  • 視覚的な手がかり:床にテープを貼る、注意喚起のサインを置くなど、視覚的な手がかりを用いて、意識を誘導します。
  • 杖や歩行器の活用:必要に応じて、杖や歩行器などの補助具を使用し、安全な移動を確保します。

コミュニケーション

コミュニケーションにおいても、相手の顔や発話を聞き逃してしまうことがあります。

  • 相手の向き:無視している側から話しかけるのではなく、患者さんが顔を向けやすい方から話しかけるようにします。
  • 視覚的な補助:ジェスチャーや筆談などを併用することで、理解を助けます。
  • ゆっくりとした発話:落ち着いたトーンで、ゆっくりと話すことで、聞き取りやすくなります。
  • 確認:話した内容を患者さんに復唱してもらうなど、理解度を確認します。

身だしなみ

顔を洗う、歯を磨く、ひげを剃る、化粧をするなどの身だしなみにおいても、片側だけしか行われないことがあります。

  • 鏡の活用:鏡を見ながら、顔全体を意識して行うように促します。
  • 声かけ:「右側もきちんと洗えていますか?」など、具体的に注意を促します。
  • 手順の提示:洗顔や歯磨きの順番を、イラストなどで分かりやすく示します。

安全対策

予期せぬ事故を防ぐための安全対策は、非常に重要です。

  • 危険物の排除:鋭利な物や、熱源など、危険となりうる物は、患者さんの手の届かない場所に置くか、撤去します。
  • 注意喚起:段差や、滑りやすい場所などには、注意喚起の表示を行います。
  • 見守り:特に初期段階では、常に誰かが見守り、事故が起こらないように配慮します。
  • 家族や介護者への情報共有:患者さんの状態や、家庭での工夫について、家族や介護者と密に情報共有を行うことが不可欠です。

リハビリテーションと治療

生活での工夫と並行して、専門家によるリハビリテーションも重要です。

  • 視覚走査訓練:無視している側から、意図的に視線を動かす練習を行います。
  • 代償手段の獲得:身体の反対側からの刺激を、より強く意識する練習や、他の感覚(聴覚など)を代償的に活用する練習を行います。
  • 環境設定:リハビリテーション室や病室の環境を、無視している側を意識するように調整することもあります。
  • 認知行動療法:患者さん自身の状態を理解し、前向きに取り組むための精神的なサポートも重要です。

まとめ

半側空間無視は、患者さん本人だけでなく、ご家族や周囲の人々にとっても、理解と根気強い関わりが求められる障害です。ここで述べた生活での工夫は、あくまで一例であり、患者さん一人ひとりの状態や環境に合わせて、柔軟に適用していく必要があります。専門家と連携しながら、患者さんの残存能力を最大限に引き出し、安全で自立した生活を送れるよう、多角的なアプローチで支援していくことが大切です。