脳卒中後の感覚障害:リハビリと感覚統合

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脳卒中後の感覚障害:リハビリと感覚統合

脳卒中は、脳の血管に問題が生じることで、脳の機能が損傷される病気です。その結果、運動機能障害、言語障害、認知機能障害など、様々な後遺症が現れる可能性があります。中でも、感覚障害は、患者さんの日常生活の質(QOL)に大きく影響を与える症状の一つです。本稿では、脳卒中後の感覚障害について、その原因、リハビリテーション、そして感覚統合療法に焦点を当てて解説します。

感覚障害の原因と種類

脳卒中による感覚障害は、脳のどの部分が損傷されたかによって、その種類や程度が異なります。一般的に、感覚障害は以下のように分類されます。

触覚・圧覚の低下・消失

物に触れた感覚、押さえられている感覚が鈍くなったり、全く感じなくなったりします。これにより、熱いものや鋭利なものに触れても気づかず、火傷や怪我のリスクが高まります。また、床の材質や衣類の感触などが分かりにくくなり、歩行や衣服の着脱に支障をきたすことがあります。

痛覚・温度覚の異常

痛みを感じにくくなる(低痛覚)、または過敏になる(異痛症)ことがあります。また、温かい、冷たいといった温度の感覚が鈍くなったり、誤って感じたりすることもあります。これは、熱湯による火傷や、冷たさによる凍傷のリスクを高めます。

固有感覚(位置覚・運動覚)の障害

自分の体の各部分が、空間の中でどのような位置にあるか、どのように動いているかを感じ取る能力が低下します。これにより、目で見なくても手足の位置を把握することが難しくなり、歩行時のバランス維持、物をつかむ、文字を書くといった精緻な運動に困難が生じます。

しびれ・感覚過敏

ピリピリ、ジンジンするといった不快な感覚(しびれ)が生じたり、逆に、わずかな刺激にも過剰に反応してしまう(感覚過敏)ことがあります。感覚過敏は、衣服の擦れや、風が当たるだけでも強い不快感や痛みを感じることがあり、精神的な苦痛となることもあります。

半側空間無視(感覚失認の一種として)

厳密には感覚受容器の異常ではありませんが、脳の損傷により、身体の片側(多くは左側)からの感覚情報が脳に到達しても、それを認識できない状態です。これにより、その側の食事を残したり、その側の物にぶつかったりといった行動が見られます。

脳卒中後の感覚障害に対するリハビリテーション

感覚障害に対するリハビリテーションは、失われた感覚機能を回復させること、残存する感覚機能を最大限に活用すること、そして感覚情報と運動機能を結びつけることを目標とします。

感覚再教育(Sensory Re-education)

これは、失われた感覚を再学習させるためのアプローチです。視覚や聴覚などの他の感覚を補助的に使いながら、損傷された感覚を刺激します。例えば、目で見ながら、損傷された方の手で様々な質感の物(布、木、金属など)に触れ、その感触を言葉で表現する練習を行います。また、温冷刺激を繰り返し行い、温度覚の再認識を促します。このプロセスは、脳の可塑性を利用し、損傷された神経回路を再構築することを目指します。

感覚刺激療法(Sensory Stimulation)

様々な種類の感覚刺激(触覚、圧覚、温度覚、振動覚など)を、損傷された身体部位に積極的に与えることで、感覚神経の活動を促進します。ブラシ、スポンジ、氷、温かいタオルなど、様々な素材や温度のものを用いて、感覚受容器を活性化させます。この刺激は、脳への感覚入力の頻度と強度を高め、感覚経路の機能回復を促すことが期待されます。

運動と感覚の統合

感覚情報と運動制御は密接に関連しています。感覚障害があると、目標とする運動を正確に行うことが困難になります。そのため、リハビリテーションでは、運動練習と感覚訓練を組み合わせて行います。例えば、固有感覚の障害がある患者さんには、目で見なくても、手足がどのように動いているかを意識しながら、ゆっくりとした運動を行う練習をします。また、バランストレーニングにおいても、足裏の感覚や体の傾きを感じ取る練習を重視します。

代償的戦略の獲得

感覚機能の回復が限定的である場合、失われた感覚を補うための代償的戦略を習得することも重要です。例えば、触覚が鈍い場合には、物をつかむ前に目でよく確認する習慣をつける、食器の縁に注意を払う、といった具体的な方法を指導します。また、しびれや痛みが強い場合には、その感覚に慣れるためのリラクゼーション技法や、必要に応じて薬物療法も検討されます。

感覚統合療法(Sensory Integration Therapy)

感覚統合療法は、もともと小児の感覚処理障害に対して用いられてきたアプローチですが、脳卒中後の成人にも応用されることがあります。これは、脳が様々な感覚情報(視覚、聴覚、触覚、固有感覚、前庭覚など)を効率的に処理し、それに基づいて適切に行動するための能力を高めることを目的とします。

感覚統合療法の考え方

脳卒中によって、感覚情報の入力、処理、そしてそれに対する適切な応答という一連のプロセスが障害されることがあります。感覚統合療法では、患者さんの個々の感覚処理の困難さを評価し、それに対して、多感覚的な刺激を意図的に、かつ体系的に提供します。これにより、脳の神経回路の再編成(神経可塑性)を促し、感覚情報の処理能力を高めることを目指します。

具体的なアプローチ例

  • 固有感覚・前庭覚の刺激:
  • ブランコ、トランポリン、ボールプール、滑り台などを利用して、体の動きやバランスに関わる感覚(固有感覚、前庭覚)を豊かに刺激します。これにより、体の空間的な位置や動きに対する認識を高め、運動制御の改善に繋げます。

  • 触覚・固有感覚の調整:
  • 様々な素材(砂、米、豆など)に触れる、重い毛布を使う、圧迫療法を行うなどして、触覚や深部感覚を調整します。これにより、過敏さや鈍麻を軽減し、心地よい感覚入力を促します。

  • 視覚・聴覚との連携:
  • 音楽に合わせて体を動かす、視覚的なフィードバック(鏡など)を利用して運動を修正するなど、他の感覚情報と統合しながら感覚・運動学習を行います。これにより、脳全体の情報処理能力の向上を目指します。

感覚統合療法は、単に感覚を刺激するだけでなく、その刺激を通じて患者さんが能動的に関わり、課題を解決していくプロセスを重視します。セラピストは、患者さんの興味や動機付けを引き出しながら、楽しみながら取り組めるような活動を設定します。

まとめ

脳卒中後の感覚障害は、患者さんの日常生活に多大な影響を与えますが、適切なリハビリテーションと、必要に応じて感覚統合療法を取り入れることで、その症状の改善や、日常生活への適応能力を高めることが可能です。重要なのは、早期からの専門家による評価と、患者さん一人ひとりの状態に合わせた個別的なアプローチです。感覚障害に対する理解を深め、継続的なリハビリテーションに取り組むことが、患者さんのQOL向上に繋がるでしょう。