ASIS(エーエスアイエス)

ピラティス・ヨガ情報

ASIS(エーエスアイエス)について

ピラティスにおいて、ASIS(エーエスアイエス)、正式名称をAnterior Superior Iliac Spine(上前腸骨棘)と呼びますが、これは単なる骨の名称ではありません。ピラティスの実践者にとって、ASISは自分の体の状態を正確に把握するための、最も重要な「羅針盤」であり、すべての動きの基準となる場所です。

ここでは、そのASISが持つ解剖学的な意味から、ピラティスにおける役割、そして日常生活における重要性までを解説します。

1. ASISとは何か:解剖学的な位置と役割

ASIS(上前腸骨棘)は、私たちの骨盤の前面、お腹の左右に突き出ている、手で触れることのできる硬い突起のことです。この突起は、骨盤を構成する腸骨(Ilium)という大きな骨の一部であり、その位置と硬さから、体の中で最も分かりやすい骨のランドマーク(目印)の一つとなっています。

筋の付着部としての役割

ASISは、多くの重要な筋肉が付着する場所でもあります。

  • 縫工筋(Sartorius): 股関節を曲げたり、膝を曲げたりする動作に関わる筋肉。
  • 大腿筋膜張筋(Tensor Fasciae Latae): 股関節の外転(足を横に開く)や、膝の安定に関わる筋肉。
  • 腹斜筋: 腹部をねじったり、体を横に曲げたりする動作に関わる筋肉。

これらの筋肉の付着部であるASISを意識することは、単に姿勢を正すだけでなく、エクササイズの際にこれらの筋肉を効果的に使うことにも繋がります。

2. ピラティスにおけるASISの絶対的な重要性

ピラティスでは、すべてのエクササイズの土台となる「ニュートラルポジション」を確立するために、ASISが不可欠な役割を担います。

(1) ニュートラルポジションの確立

ニュートラルポジションとは、骨盤が前傾も後傾もしておらず、背骨の自然なS字カーブが保たれている、最も安定した状態のことです。

この状態を感覚的に把握するために、ピラティスではASISと恥骨(ちこつ)を結んだ三角形をイメージします。仰向けに寝たとき、この三角形が床と平行になるように骨盤を調整することで、ニュートラルポジションが完成します。

(2) なぜニュートラルが重要なのか

  • 体幹の安定: ニュートラルポジションを保つことで、腹部のインナーマッスル、特にコルセットのように腹部を包む腹横筋(Transversus Abdominis)が働きやすくなります。これにより、体幹が安定し、手足を動かす際にもブレない軸を保つことができます。
  • 腰痛の予防: 骨盤が過度に前傾(反り腰)したり、後傾(猫背)したりすると、腰椎に過度な負担がかかり、腰痛の原因となります。ニュートラルポジションを意識することで、腰への負担を軽減し、腰痛の予防に繋がります。
  • 正しい動きの学習: ニュートラルポジションを維持しながら手足を動かすことで、無駄な代償動作(体幹を動かしてしまうこと)を防ぎ、股関節や肩甲骨といった本来動くべき関節を正しく使うことを学習できます。

3. ASISの正しい見つけ方と意識するコツ

ASISの位置を正確に把握することが、ピラティス上達への第一歩です。

(1) 見つけ方

  1. 仰向けに寝て、リラックスします。
  2. お腹の左右、腰骨の少し内側に、手のひらを当てて触ってみてください。
  3. 硬い骨の出っ張りがあるはずです。これがASISです。
  4. 次に、両手の指先でASISを、両手の親指で恥骨を触ってみましょう。この三点でできる三角形が、あなたの「骨盤の羅針盤」となります。

(2) 意識するコツ

  • 「お腹の時計」のイメージ: 仰向けに寝たとき、骨盤全体を時計の文字盤に見立てます。お腹の上が12時、恥骨が6時です。
    • ニュートラル: 時計の文字盤が床と平行な状態。
    • 後傾(Pelvic Tilt): 骨盤が後ろに倒れ、時計の針が12時を指す状態。
    • 前傾: 骨盤が前に倒れ、時計の針が6時を指す状態。 このイメージで骨盤を動かす練習をすることで、ニュートラルポジションを感覚的に掴むことができます。
  • 「骨盤のコップ」のイメージ: 骨盤をコップに見立てて、その中に水が入っていると想像します。コップを傾けずに、中の水がこぼれないように骨盤を動かすことを意識してみましょう。

4. ASISを意識する具体的なピラティスエクササイズ

多くのピラティスエクササイズは、ASISを意識することで、その効果が飛躍的に高まります。

  • ペルビックティルト(Pelvic Tilt):
    • 骨盤を前後にゆっくりと傾ける、ピラティスの基本エクササイズです。ASISを意識することで、腰の反りすぎを防ぎ、腹筋を効果的に使うことができます。
  • ハンドレッド(The Hundred):
    • 仰向けで上半身と足を浮かせる腹筋エクササイズです。ASISの位置を動かさずに、腹部の力だけで姿勢を維持することで、腹横筋を効果的に鍛え、腰への負担を減らします。
  • レッグサークル(Leg Circle):
    • 仰向けで片足を回すエクササイズです。ASISの位置が動かないように骨盤を安定させることで、股関節の正しい動きを促し、体幹を鍛えることができます。

5. なぜASISの意識が難しいのか

現代の私たちは、長時間座るデスクワークやスマートフォンの使用によって、骨盤が後傾したり、股関節周りの筋肉が硬くなったりしがちです。これにより、ニュートラルポジションを維持することが難しく、ピラティスを始めたばかりの人は、ASISを意識すること自体が難しく感じるかもしれません。

しかし、継続してASISを意識する練習を重ねることで、少しずつ正しい姿勢を体が覚え、ピラティスだけでなく、歩行や座り方といった日常生活の動作も改善されていきます。

まとめ

ASIS(上前腸骨棘)は、単なる骨の名称ではなく、ピラティスにおける**「ニュートラルポジション」を確立するための羅針盤**です。このASISを意識することは、体幹を安定させ、腰への負担を減らし、そしてすべてのエクササイズの効果を最大限に引き出すために不可欠です。

ASISを意識する習慣は、ピラティスの時間だけでなく、日常生活においても、あなたの姿勢を正し、より健康で、機能的な体へと導いてくれるでしょう。それは、私たちの体と心に安らぎをもたらす、ピラティスの深い哲学そのものです。