高次脳機能障害の就労・復職支援とリハビリ

ピラティス・リハビリ情報

高次脳機能障害の就労・復職支援とリハビリ

高次脳機能障害とは、脳の損傷により、記憶、注意、遂行機能、言語、視空間認知などの知的な機能に障害が生じる状態を指します。この障害は、外見からは分かりにくいことが多く、本人だけでなく、周囲の理解も深めることが重要です。就労・復職においては、本人の能力と障害特性を理解し、適切な支援体制を構築することが不可欠となります。

就労・復職支援の全体像

高次脳機能障害のある方の就労・復職支援は、多岐にわたる専門職が連携し、本人中心のアプローチで進められます。個々の障害の特性、生活背景、希望する働き方などを丁寧に把握し、オーダーメイドの支援計画を作成することが基本となります。支援のプロセスは、大きく分けて以下の段階で構成されます。

1. アセスメント(評価)

就労・復職支援の第一歩は、詳細なアセスメントです。これには、医学的評価、心理社会的評価、そして就労可能性評価が含まれます。

  • 医学的評価: 脳の損傷部位、原因、現在の身体的・精神的状態を把握します。主治医や専門医による診断、検査結果が重要となります。
  • 心理社会的評価: 認知機能(記憶力、注意、実行機能など)の評価に加え、感情、意欲、対人関係、ストレス耐性なども評価します。心理士による心理検査や面談が中心となります。
  • 就労可能性評価: これまでの職務経験、スキル、希望する職種、通勤能力、経済状況などを評価します。キャリアコンサルタントなどが担当します。

これらの評価結果を統合し、本人の障害特性と社会生活における困難さを具体的に理解します。

2. 支援計画の作成

アセスメントの結果に基づき、本人、家族、支援機関が共同で支援計画を作成します。計画には、具体的な目標、支援内容、実施期間、担当者などが明記されます。目標設定は、短期的なものから長期的なものまで、段階的に設定することが効果的です。例えば、「まずは週に数時間、短時間勤務から復帰する」といった具体的な目標が考えられます。

3. リハビリテーション

就労・復職支援におけるリハビリテーションは、単なる身体機能の回復にとどまらず、社会生活への適応と就労能力の向上を目的とします。専門職による多角的なアプローチが取られます。

リハビリテーションの詳細

認知リハビリテーション

高次脳機能障害の核心となる認知機能の改善・代償を目指します。

  • 記憶障害への支援: メモ帳、カレンダー、スマートフォンアプリなどの外部記憶補助具の活用訓練、記憶術の習得、日常生活での記憶を助ける工夫(ルーティン化、整理整頓など)を行います。
  • 注意障害への支援: 集中力を維持するための環境調整(静かな場所での作業、作業時間の短縮)、注意を促すツールの活用(タイマー、チェックリスト)、注意散漫になる要因の特定と対策などを支援します。
  • 実行機能障害への支援: 計画立案、段取り、見通し、自己モニタリング(自分でできているか確認すること)などの能力を向上させるための訓練を行います。タスクの細分化、手順の視覚化、チェックリストの活用などが有効です。
  • 言語障害・視空間認知障害への支援: 言葉の理解や表出、物の配置や方向の認識など、障害に応じた訓練を行います。

これらの訓練は、個別訓練だけでなく、集団訓練や、実際の生活場面を想定したロールプレイング形式で行われることもあります。

作業療法

日常生活動作(ADL)や職業活動に必要な動作の訓練を行います。

  • 作業遂行能力の向上: 集中力、段取り、手際の良さなどを高めるための作業活動(手芸、パズル、調理など)を行います。
  • 環境調整の提案: 職場や自宅の環境を、本人の障害特性に合わせて調整するための具体的な提案を行います。例えば、デスク周りの整理整頓、情報過多にならない工夫、休憩場所の確保などです。
  • 使用補助具の選定・訓練: 効率的な作業や安全確保のために必要な補助具(例: 特定のキーボード、声で操作できる機器)の選定や、その使用方法の訓練を行います。

心理的支援

障害受容、意欲の向上、ストレスマネジメントなどを目的とした心理的サポートを提供します。

  • カウンセリング: 障害による葛藤や不安、将来への心配など、本人や家族の感情を受容し、自己肯定感を高めるための個別カウンセリングを行います。
  • 精神科医・心療内科医との連携: 必要に応じて、うつ症状や不安障害などの精神症状に対する薬物療法や精神療法を併用します。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST): 対人関係やコミュニケーションにおける困難さを軽減するため、具体的な場面を想定したロールプレイングを通じて、適切な行動を習得する訓練を行います。

運動療法・理学療法

高次脳機能障害と併存する身体機能の低下や、歩行障害、バランス障害などの改善を目指します。運動機能の維持・向上は、生活の質(QOL)の向上にも繋がり、間接的に就労・復職への意欲を高める効果も期待できます。

就労・復職支援の具体的な取り組み

就労移行支援事業所

障害のある方の就職、または就労継続支援事業所への移行を支援する公的な事業所です。個別支援計画に基づき、専門スタッフ(ジョブコーチ、キャリアコンサルタント、心理士など)が、職業訓練、求職活動支援、職場探し、職場定着支援まで、一貫してサポートします。

ジョブコーチ支援

障害のある方の職場への適応や、職場での定着を支援する専門家です。

  • 職場訪問・環境調整: 職場の実態を把握し、本人と上司・同僚との間に立って、必要な配慮や工夫を提案・実施します。
  • 業務遂行支援: 具体的な業務の進め方、集中力の維持、ミス防止策などを、本人に合わせて指導・助言します。
  • コミュニケーション支援: 上司や同僚との良好な人間関係構築をサポートします。

職場適応援助者(ジョブコーチ)

精神障害者等の雇用に伴う事業主の職場適応支援のために、職場訪問等を行い、担当者、本人、事業主等に対し、助言・援助を行います。就労移行支援事業所などに配置されています。

ハローワークの活用

ハローワークでは、障害者専門の窓口を設け、求人情報の提供、職業相談、職業訓練のあっせんなどを行っています。高次脳機能障害の特性を理解した相談員が対応してくれる場合もあります。

企業との連携

障害者雇用を推進する企業や、障害者理解のある企業との連携も重要です。企業側が障害特性を理解し、柔軟な雇用管理や、本人の能力を最大限に活かせるような職務設計を行うことが、復職・定着の鍵となります。

まとめ

高次脳機能障害のある方の就労・復職支援は、個々の障害特性に合わせた、きめ細やかなアセスメントと、専門職による多職種連携が不可欠です。リハビリテーションは、単に機能回復を目指すだけでなく、社会生活への適応、そして職業能力の向上を包括的に支援するものです。認知リハビリテーション、作業療法、心理的支援などを通じて、本人が自信を持って社会参加し、活躍できる環境を整えることが、支援の最終的な目標となります。企業側も、障害者理解を深め、多様な働き方を認める柔軟な姿勢を持つことが、円滑な復職・定着に繋がります。継続的な支援と、周囲の温かい理解が、彼らの社会復帰を力強く後押しします。